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冷え込んできた夜の六分街――地下鉄の入り口付近に立っていれば、「お兄ちゃん!」とリンが声をかけてきた。
「おかえり」
「ただいま! こっちまで迎えに来なくてもよかったのに」
「別にいいじゃないか、近いんだし。それで、カリンとのデートは楽しかったかい?」
「もっちろん! ケーキがね~、ぜーんぶ美味しくってもういっぱい食べちゃった!」
「じゃあもしかすると夕飯は入らなさそうかな?」
「えへへー、実はここに帰ってくるまでにお腹減っちゃったんだよね」
「それはよかった」
歩き出すと、少し肌寒い風が僕らの間を通り抜けた。
リンはぶるるっと震えると、「寒いねぇ」と手をこすり合わせている。
「食べればすぐ温まるさ」
「うん~」
そう言いながら、鼻の頭を少し赤くしている妹の様子に心配になる。また風邪を引いてしまわないだろうか、と。
「寒いなら、繋いでいてあげようか」
僕は指先の冷えたリンの手をそっと握った。
「ええ?」
「さっきまで店の中にいたからね、体温は高いと思うよ」
「んー、そうでもないかな~。お兄ちゃん基本低体温だし」
ぎゅっと手を握り返され、僕は目を丸くした。
「私の方が体温高そう! ほら掌とか!」
「うーん、どうやらそうみたいだ」
「ねぇお兄ちゃん、私今度ケーキ作ろうと思うんだ。カリン特製レシピの!」
「へぇ、リンがお菓子作りなんて一体どういう風の吹き回しだい?」
「もう! お兄ちゃんの為なんだよ~!? お兄ちゃんなんか最近疲れてるっぽいし、元気出してもらおーと思って!」
「なんだそういうことか。でもきっと、練習の為に作ったケーキをいっぱい食べさせられて、本番の時にはもう胸がいっぱいになってしまう未来が見えそうだよ」
「うぐっ、それは……そうかもね~。あ、お兄ちゃん今日何食べる~? 私はねー……」
お目当てのラーメン屋、滝湯谷に近づくと二人は繋いでいた手をどちらともなく離して端の席へと座った。メニューを見ずとも何があるかわかっている二人は、あれこれと悩ましくラーメンを選び注文し終えると、今日あったことやお店のこれからについて楽しそうに話し始めた。
そして今日も変わらず仲睦まじい兄妹の様子をチョップ大将に見守られながら、六分街の夜は更けていくのだった。
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