#12 幼き日の記憶 - 3/6

 ***

 ――最悪な結末にはなってほしくなかった。

 最悪な結末とはもちろん、今回被災したひとたちがエーテリアスによって簡単にほふ られること。
 虫けら同然に体を放り投げられ、千切られ、引き裂かれ、殺されること。

「せめて人道的に死にたいもんだ」

 だからできるだけエーテリアスを引き付けて、隠れなければいけない――。

 僕の手の届く範囲の人たちはどうにか一か所に集まってもらうことができたと思う。静かにしていれば、あのシャッターの中なら見つかりにくいはずだ。あとは治安局の手に委ねるしかない。

 そして僕は……これまで積み重ねてきた自分の運動不足を呪った。

「はあ、はあっ……イアスと感覚同期して走っている時より、遅い気がする……いや、そんなことない、そんなことないはず……」

 迫りくるエーテリアスに捕まらないよう激痛を与える催涙スプレーを駆使して逃げているものの、数分の足止めにもならない。どうにかエーテリアスの視界から姿を消さなければ、と建物に入り込んだのがまずかった。
 ホロウに呑まれたせいで電気系統の一部が故障したのか、自動ドアがほんの少し開いた建物に僕は体を滑らせて入り込んだが、エーテリアスはその入り口からは入ることができないと踏んだのかすぐさま建物を攻撃した。そんなことは読めていたはずなのに、肉体疲労のせいで僕の脳みそもから回る。

「うわっ」

 崩れ落ちてきた壁から逃れようと必死になるが、体は言うことを聞かない。なんとか頭だけは守らないと――そう思って体を小さく丸めると、何かにぶつかったのかぐらりと意識が遠のいていった。

 だから、リンの呼ぶ声が聞こえたのは幻聴だと思ったんだ。

 僕が意識を手放してすぐ、リンの声が近づいてきた。
 腕を引っ張られ、痛いな、と思うもののそれは声に出せなかった。
 うっすら目を開けてみれば、そこにいるのはイアスで、助けに来てくれたんだなとすぐにわかった。
 わかったけれど、ぼんやりとした意識ではそれ以上何も考えられない。

「……ちゃん、お兄ちゃん……!」

 必死に呼ぶリンの声が、遠くなっていく。
 僕を揺らすイアスが、思い出の中の何かと重なる。

 ……イアスの小さな影が、段々と幼いリンの姿を思い出させた。

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!