#12 幼き日の記憶 - 6/6

 ***

 目を覚ますと、目の前には心配そうなリンが涙をあふれさせながらそこにいた。

「お兄ちゃん!」

 ぎゅうっ、と首元に抱き着かれて僕は息苦しさを感じる。

「リン……苦しいよ」

 抱きしめられながら、ここが病院だということに気が付いた。
 大部屋で、多分他にも人がいるのだろうけれど、カーテンで仕切られていて見えない。

「起きなかったらどうしようって思った」
「そんなわけないだろ?」
「でも、もし浸食がひどかったらって、どうしようって」

 鼻水をすす る音が聞こえる。
 泣きじゃくる妹の背中を撫でていると、ふと、幼い妹と僕の記憶が脳裏をかすめた。

 幼かった僕と妹。
 今はお互いに成長して、でも、こうして抱き合っている。

 言おう。
 僕がこれ以上おかしくなってしまう前に。
 君をこんなにも愛してるって。

 ようやく離れたリンの泣き腫らした表情を見て、笑いが込み上げてきた。
 ああ、なんて可愛いんだろうか僕の妹は。

「ふふっ」
「……お兄ちゃん?」

 リンの髪を撫でて、頬を伝った涙のあと を拭う。

「リン」
「何?」
「愛してるよ」

 かす れた声で、君だけに聞こえるように伝えた。

「リンのこと、愛してる」

 どんな反応をするだろう。
 軽蔑するだろうか。
 驚いて、僕をひっぱたくだろうか。

 さあなんでも来い。

 そんなことを考えたのに。

 リンは涙を止めて、僕の頬を両手でぱちんと挟むと

「私も!!!!!」

 そう大声を上げ、

 僕に口づけをした。

「……?? えっ」

「私も、お兄ちゃんのこと愛してる!」

「いや、リン――」

 ぐだぐだと僕が言う前に閉じてしまえとでも言うのか、
 リンはまた僕に口づけをした。

 ――どうやら全て、僕の杞憂だったらしい。

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