#13 これからも二人で - 3/7

「私ね、この前お兄ちゃんとキスしたいって思っちゃったの」
「……えっ」

 そう言われて、アキラは昨日の出来事を思い出す。
 柔らかなリンの唇。
 感触を覚えている。
 急激に体が熱を帯びるのを感じた。

「普通、妹が兄に対して思うことではないなってすぐわかったよ。でも、お兄ちゃんに愛してるなんて言われて、我慢できなかった」
「リンはすごいね」
「え?」
「僕もたくさんリンに対していろんな欲を抱えてて、今までずっとそれをひた隠しにしてきたんだけど。……リンは自分の気持ちに真っ直ぐだ」
「もしかして馬鹿にしてる?」
「してないよ」

 アキラが肩をすくめると、リンは「もう」と口を尖らせた。

「どうして急に愛してるなんて言ったの?」

 リンの疑問。
 アキラは口を開いて――しばらくしてから声を発した。

「……僕はね、幼い頃約束したにもかかわらず、リンに『嫌がること』をいつかしてしまうんじゃないかって怖かったんだ。今言ったように僕はずっと自分の気持ちを自分自身にさえ隠して、醜い欲を無いものにしてた。それがいつか隠し通せなくなって、リンの気持ちを無視して何かしてしまうんじゃないかって怖かった」
「………」
「僕の気持ちを伝えたら、拒絶してもらえるんじゃないかと思ったんだ。そうしたら、僕はいさぎよ くリンを諦められるかな……ってね」
「……そっかぁ」
「………」
「言って良かったね?」
「……まあ、そういうことになるかな」

 車内で音楽はかかっていない。
 エンジン音だけが響く。
 また二人は会話がなくなって――見慣れた景色が近づいてくる。
 六分街はいつも通り。
 ただ、今この車内の二人だけは、いつもとは少しだけ違っている。

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