#13 これからも二人で - 6/7

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 すべてが落ち着いた夜――遅くまで人通りがある六分街も随分と静かになった。
 お仕事を終えたボンプたちを休ませ、アキラはソファに座ってタブレットを操作している。

「お兄ちゃん、まだ寝ないの?」

 リンがドアの隙間から顔を出して声をかけてきた。

「ああ、もう寝るよ」
「早く寝た方がいいよ~、明日になってまたいつもみたいにニコがやってきて『パエトーン! 助けてほしいの!』なーんて展開があるかもしれないし」
「縁起でもないことを言うなぁ……」

 アキラはソファにもたれていた体を起こし、立ち上がった。

「Fairy、私たちもう寝るからね。また明日!」

 リンが声をかけると、『おやすみなさいませ、マスター、助手2号』と電子音が響いた。
 リンとアキラが部屋を出ると、店側のフロアは暗くなっている。階段の明かりに照らされていくらか見える程度だ。アキラがそのまま階段を上がろうとしているところに、リンが服の裾を引っ張って阻止した。

「んっ、なんだい?」

 驚いて振り返る。
 リンは「んー……」と言いにくそうにし、困ったような表情をするとそのままアキラの服を引っ張って受付カウンターまで進んでいった。

「リン?」

 アキラの問いかけに答えず、リンはカウンターの中でしゃがみ込む。アキラもその横に同じようにしゃがみこんだ。誰かから隠れるように、誰にも見えないように、二人きりになったその場所でリンは足を抱えて下から見上げるようにアキラを見る。

「……やり直そうよ」
「何を?」
「結婚式」

 リンの提案に、アキラはぽかんとする。けれどもすぐさま「ぷっ」と笑いを堪え切れずにふき出した。

「ちょっとー、何で笑うの?」
「いや、ふふっ、子どもっぽいなと思って」
「ちょっと、全然子どもじゃないからね! もっとこう、ちゃんとしたいなと思って」
「ちゃんと?」
「小さい頃は、何もわかってなかったし」

 むすっとして、頬を膨らませるリン。
 アキラは微笑んでリンの頭を撫でた。

「それで? どうしたらいいんだい?」
「……ええとね、コホン!」

 わざとらしく咳払いをし、リンがまるで神父か牧師かのように話し始める。

「リンの兄である、アキラは、これからも妹であるリンに、優しくし、甘やかし、生涯大事に愛することを誓いますか!?」
「!? ……いや、甘やかしって、それだとリンに都合のいいだけじゃないかい?」
「ほら! 誓いますか~?」

 いたずらっぽい笑みを浮かべてリンが訊ねる。
 アキラは少し背筋を伸ばして、

「誓います」

 と答えた。

「ふふっ! 私も、お兄ちゃんに甘やかされて、大事にされて、それで、一生あなたを愛することを誓います」
「こんな誓いでいいのかな」
「いーの、私たちだけの結婚式なんだから」
「それで?」

 何かを急かすようにアキラは顔を近づける。

「っ! それで……」

 リンは驚き一瞬目を逸らすも、すぐにアキラと目を合わせた。

「……誓いのキスは、お兄ちゃんからして」
「昨日はリンからしてくれたからね」
「そういうこと言わなくていいの」

 怒るリンの顔――それが愛おしく感じ、アキラはその頬を優しく撫でてやった。

「んっ……お兄ちゃんくすぐったいよ」
「リンがすごく可愛いから」
「そんなこと思ってたの?」
「そんなことずっと思ってたんだ」

 アキラの手がリンの頬をすべり、肩に載せられる。

「これからも大事にするよ、約束だ」
「うん。……これからも、ずっと二人でいようね」

 リンの言葉を聞くと、
 アキラはそっとリンの唇に自分の唇を重ねた。
 長く、
 長く、
 これまで足りなかったものを埋めるように。

「――誰に祝福されなくても、僕らはずっと一緒だ」

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