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朝一番、ビデオ屋を開ける時間よりも早くそれはやってきた。
「パエトーン! 緊急事態よ!! 私の依頼主がこの前のホロウ災害でうちの大事な商品を――って、あれ?」
いつものごとく現れたニコだったが、いつもいるはずの部屋にパエトーンの二人はいない。恐る恐る階段に近づき、二階を見つめるニコ。
「……まさか上の部屋で二人よろしくやってるとかいう展開じゃないわよね……?」
階段をこのまま上ろうかやめようか思案していると、ひょこっとリンが二階から顔を出した。
「やっぱり来た! お兄ちゃん、ニコが~」
そう言いながらリンの声が遠のいていく。アキラの部屋へと行ったんだろうかとニコは少し待つことにした。するとすぐにアキラも顔を出した。
「いらっしゃい、ニコ。君はいつも僕たちに驚きを与えてくれるね」
「したくてしてるわけじゃないわよ! ほらパエトーン、早く降りてきて!」
「はいはい」
アキラが肩をすくめてみせる。
ニコはふんと鼻息を荒げるといつものH.D.Dがある部屋へ歩いて行った。
「――やっぱり来たね、ニコ」
「リンが昨日あんなこと言ったからじゃないかい?」
「私のせいじゃないもん~」
逃げるようにしたリンの手を取り、アキラは自分の方へと引き寄せる。
「もう少しこうしてたかったな」
「何言ってるの、時間はいくらでもあるでしょ?」
アキラに抱きしめられながら、リンはアキラの腕をぎゅっと抱く。
そのまま後ろを振り返って、軽くキスをした。
それからあっさりと体を離し、二人は階段を下りて行く。
「さあ、僕らの仕事を始めようか」
これまでと少しだけ変わった日常が――今日から始まろうとしていた。
<了>
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