#5 「私はね、私なりに君を愛しているんだよ」 - 1/3

「それじゃあダーリン、電圧テストをするからフロントパネルを外していくよ」
「ああ……よろしく頼むぜハニー……」

 わくわくと楽しそうな様子のグレース。
 げんなりとした様子のビリー。
 二人は定期検査の為にグレースの部屋で向かい合って座っていた。



 ――少し前に提案されたグレースの突拍子もないアイデア、『恋人のように接する』はあれから今日までしばらく続いている。
 そして毎朝のように、グレースからは『おはようダーリン』の挨拶と共にビリーの具合を訊ねる質問がメールで送られてくる。
 昼になれば『君に合うとびきりのパーツを探しているところなんだ』と商品画像や説明文が送られてきて。
 夜になればビリーの機体ひいてはロストテクノロジーについての考察文(研究進捗)が添付されたメールが届き、文末には『愛してるよダーリン』の文字。

 恋人になるなんて言っていない、とはっきり言っていたビリーも今や押し負けて彼女のことを「ハニー」と呼んでいる始末である。

(……圧が強い女は俺の周りにゃたくさんいるけどよぉ、こいつのはそれとはまたちげーんだよなぁ。もしかして俺様って、弱い男なのかしら)

 ほろり、と涙のエフェクトが表出される。しかし彼のそんな様子はグレースの目には映っていない。彼女の視界いっぱいには電圧計とコード、そしてビリーの内部構造。

「うん、うん、今日はどこも悪いところはなさそうだ。試してみたいと思っていたパーツもあったんだけれど、また別の日にした方がいいかもしれないな」
「そりゃよかったぜ。今日は早く帰れるってこった」
「ええ? すぐに帰ってしまうのかい?」

 きょとんとしたグレースの表情。ビリーはぐっと一瞬言葉を詰まらせながらもそっぽを向く。

「そりゃなんでもねーのにここにいる意味なんてねーだろ」
「そんなこと言わずにさ、せっかくだから私の研究に付き合っておくれよ」
「………」
「ねっ?」

 にこりと笑うグレース。それを見てビリーは肩を落とした。

「はいはいどうせ俺には拒否権なんてねーのわかってるよ」
「やっぱり君は優しいね! よーし、それじゃあそこのベッドに体を横たえて!」

 ビリーがベッドに仰向けに寝ると工具を持ったグレースの手が伸びてくる。
 今日は下半身についての研究らしい。
 ビリーはズボンを下ろされ、次々と外されて行く部品たちをちらりと見たが、すぐに興味を無くして天井を見つめた。
 グレースへの信頼度はすでに十分蓄積されている。こうやって体を預けても悪いようにされないことはわかっているのだ。だからビリーはいっそのこと感覚機能をすべてオフにして“入眠体勢”に入ってもいいとすら思っていた。

 だがふいに、興味が頭をもたげた。

「なあ」
「ん?」

 ビリーが声をかけるが、グレースはビリーのフェイスパーツへは顔を向けない。忙しなく動く手も止めようとはしなかった。

「あんたは俺のことを恋人のように思ってんだろ?」
「え? そうだとも。ああ、もしかして恋人感が足りなかったかい? 毎日メールを送っているし、君への好意も伝わるように研究進捗も送ってきたが、まだ他にしなければいけないことが……? パーツのプレゼントはもっと機体との相性をよく考えたいしなぁ」
「いやーそうじゃなくってよぉ」

 ビリーは大腿部に触れるグレースの手の感触を感じ取りながら言った。

「付けてみたいとか思わねーのかなって」
「ん? 付けるって何をだい?」
「いやーほら、そのよう……“男性器”を模したやつっつーか……」

 そこまで言って、ようやくグレースはビリーのフェイスパーツへと顔を向けた。

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