──最初はほんのちょっぴりの“コーキシン”だったの。
ハルマサのお部屋で、
わたしはシャワーから上がったところで、
でもわたしが上がってきたことにハルマサは気づいてないみたいで、
『ただいまー!』
って
後ろから驚かせてあげようと思ったんだ。
だからこっそりこっそり近づいて
いつもならハルマサ、すぐわたしのケハイに気づくのに。
ぜーんぜん気づいてなくて。
あれれおかしいなって思ったら
スマホの画面をじーっと見てて
それをわたしも後ろから
じーって
見てみたの。
《それじゃ、明日の19時にルミナスクエアの地下鉄入り口で待ち合わせね!》
そのメッセージが目に飛び込んできて
アイコンと名前が見えて誰とお話してるのかすぐわかった。
プロキシだ。
おねえちゃんの方の、プロキシ。
《でもちゃんと定時で上がれるわけ~?》
《大丈夫だって! きっかり時間通りに上がって約束守ってみせるからさ》
プロキシから来たメッセージに
ハルマサがそう返事を指でとととんって打った。
後ろからだから
お顔は見えないんだけど
なんだか
楽しそうで
「わ!? 蒼角ちゃん!? なんで背後に立ってるわけ!?」
「ハルマサ……」
「もー、上がったなら上がったって言ってくれればいいのに」
ハルマサはそう言うと、なんだか焦ったみたいに持ってたスマホの画面を暗くしてテーブルの上にふせて置いちゃった。
わたしはなんだかざわざわする感じがして、ハルマサの方を見ないで聞いたの。
「今、誰から連絡きてたの?」
「えっ? あー……なんでもないよ、ちょっと仕事のこと」
「お仕事?」
お仕事の話だった?
相手がプロキシだから、ほんとにお仕事の時もあるよね。
でも、ほんとに今のはそうだったのかな。
『プロキシとお仕事なの?』
って
聞けばいいだけなのになんでかお口が動かなくって。
かわりに
「そうなんだぁ」
としか、
言えなかった。

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