#2 おそろいデートといじわるの味 - 2/4


 ***

 悠真の住むマンションから程よい距離にある繁華街まで出た二人は、道路の脇に立ち並ぶ店を見て回っていた。
 雑貨店に、古着屋、バーガー店で立ち止まるも、このあと焼肉に行くからとどうにかそこから離れた。
 ふと立ち寄ったファッション雑貨店で、蒼角が嬉しそうな声を上げる。

「ハルマサ! めがね!」
「え?」

 蒼角が見ていたのは眼鏡やサングラスが置かれているコーナー。ここは眼鏡屋ではない為、どれもファッション用だ。

「はいハルマサ!」

 そう言って蒼角は眼鏡を手に取って悠真の顔にかけさせようとした。
 悠真も大人しく屈んで眼鏡をかけさせてもらう。
 黒縁の至ってシンプルな眼鏡。
 近くに置いてある全身鏡で悠真は自分の姿を確認した。

「おー、眼鏡の僕もいいんじゃない?」
「うん! なんだか頭良さそうに見えるよ!」
「それって~普段は頭良さそうに見えないってこと~?」
「わわ、ちがうちがう! えーっと、めがねのハルマサも好きってこと!」
「ふぅん。ま、いっか。それにこれなら蒼角ちゃんとお揃いデートになるし」
「おそろいデート? それってすっごく特別っぽい! ハルマサ、これ買お!」
「はいはい、じゃあ買ってくるね。っと……これも買おうかな」
「?」

 悠真が何かを手に取ったが、すぐにレジへと向かってしまった為に蒼角からは見えなかった。
 少しして支払いを終えた悠真が戻ってくる。

「タグ取ってもらったんだー」

 そう言ってレンズを服の裾で拭き取ると、眼鏡をかけた。

「どう?」
「えへへ、似合ってる~」

 そうして二人で店を出ると、悠真は道の脇に寄って立ち止まった。

「ちょっといい?」
「何~??」

 蒼角がすぐ傍まで来て彼を見上げると、悠真は蒼角の髪を耳に掛けた。

「これ、僕とお揃いになるけどどう?」

 そう言って取り出したのは、眼鏡と一緒に買った小物。
 よく見れば×の形をしたピアスだった。

「わ! ハルマサがしてるのといっしょ!」
「僕は左耳につけてるから~、蒼角ちゃんは右耳でいい?」
「いーよ! つけてくれるの?」
「うん」

 悠真の指が蒼角の右耳に触れる。
 今日は耳に何もつけておらず、悠真は彼女の耳たぶを優しく擦るように触った。
 蒼角はくすぐったそうにぎゅっと目を瞑ったが、すぐにピアスが付けられ手が離れていくと自分でもそこに触れてみた。

「わあ、ありがとハルマサ! でもわたし、自分でも見てみたい!」
「写真撮ってあげよっか?」
「うん!」

 満面の笑みを浮かべる蒼角に、悠真はスマホのカメラを向ける。
 嬉しそうな蒼角の表情が写真に収められると、満足そうにそれを彼女に見せた。

「えへへー、おそろいだぁ~」
「うん、いいね」
「ねね、ハルマサも一緒に写真撮ろ!」
「ええ? 僕はいいんじゃないかなぁ」
「どうして? せっかくだから撮ろ!」

 そう言うと蒼角は自分のスマホを取り出して、悠真の腕にしがみついた。
 悠真も仕方なく体を屈めると、蒼角が向けているインカメのレンズを見つめる。

「はいチーズ! ……わーい! ハルマサとおそろいツーショット写真だ~!」
「そんなに嬉しい?」
「だって撮ることないでしょ?」
「うーん、確かに。六課の集合写真ならいつだったか撮ったけど」
「そういうのじゃなくってぇ~!」

 頬をめいっぱい膨らませて怒る蒼角に、悠真は堪え切れずに笑った。

「あははっ、ごめんごめん」
「もー。それに今日のは特別だもん! めがねにー、おそろいのピアス! 蒼角が独り占め!」
「そうだね、でも蒼角ちゃんは僕の前じゃなくてもピアスつけてくれていいよ?」
「どうして?」
「だって牽制になるじゃない」
「ケンセー?」

 首を傾げる蒼角の頬に、悠真の手が触れる。
 少し頬を撫でたあとで、ピアスが付いている耳たぶをそっと撫でた。

「これで僕のモノってわかるでしょ?」

 にこりと微笑むと、蒼角はきょとんとした顔をして……それから少しだけ顔を赤らめて「え、へへ」と視線を逸らした。

「そういうの、ちょっぴり恥ずかしいねぇ~」
「そう?」
「だって、ハルマサと付き合ってること、他の人にははっきり言っちゃだめってこないだナギねえに言われたのに」
「でもそのうち周知の事実になるでしょ~。だって僕、別に隠す気もないし」

 そう言って蒼角の髪を指先で梳かし、弄ぶ。
 そんな二人の様子を、通行人が興味深々な様子でしばし見つめていた。
 彼らがあの有名な執行官たちに似ている、とでも思ったのかもしれない。

「でもハルマサ、前に『誰かに見られたら、六課の良くない噂が立っちゃう』って、言ってたよ?」
「ああ……それはあからさまにラブホから出てくるとこ見られるのはちょっとって話で……」
「じゃあこうやって、蒼角のほっぺたや髪を触ったりするのは、いいの?」

 髪に触れていた悠真の手に、蒼角の手が重なる。

 小さな手が撫でていく部分が熱く感じる。

「……今のハルマサの手、そういうこと、する時みたいに、えっちだよ……?」

 少しだけ潤んだ上目遣いは、悠真の心臓を強く締め付けた。

「――うん、ごめん、もうしないから」
「しないの?」
「しない。お外ではこういうことヨクナイってワカリマシタ」
「ハルマサ、カタコトになってるー!」

 困った表情の悠真は少し体を離すと「行こうか」と歩き始めた。
 蒼角はその横をついて歩いて行く。

「あ」
「ん? 何?」
「……でも、お手ては繋いでいい?」

 蒼角の問いに、悠真は少し面食らったような顔をして――口元に笑みを浮かべた。

「はい、どーぞ。迷子にならないようにね」
「うん! お手て繋いでたら、迷子にならないよ!」

 ぎゅ、っと手を握ると二人はまた通りを歩き始めた。

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