#5 夢の中で - 2/5


 ***

「おはよーございまーす」

 少し気怠そうな浅羽悠真の声が六課オフィスに響いた。
 いつもなら課長、副課長の返事よりも先に蒼角の「おはよー!」が聴こえてくるのだが――

「……あれ? 蒼角ちゃんは?」

 思わずきょろきょろと彼女を探す。
 デスクを見ても蒼角はいない。
 ふと見れば、蒼角は隅の方に置かれたソファの上でぐったりと横になっていた。

「おはよ、蒼角ちゃん」
「ハルマサぁ……おはよぉ」

 なんとも蚊の鳴くような声が返ってきて、悠真は首を傾げた。

「どーしたの? あ、もしかしてもうすでにお腹減っちゃってるとかぁ? それなら……じゃーん! なんとキャンディ持ってるんだ! 食べる? 3つのうち1つはハズレでにがーい味なんだけどぉ……」
「いらなぁい」
「――え!?」

 食べるかと聞けば、必ず「食べる!」という返事が返ってくるはずの蒼角の口からありえない返事が聞こえ、悠真は思わず後ずさりした。

「蒼角ちゃんが食べ物を断るなんて……何かあった!? 具合悪い!? 病院連れていこうか!?」
「ううー、大丈夫だよぉ。今日はその、ちょっと食欲がないだけで……」
「食欲が、ない……!?」

 またもやあり得ない返答に、悠真は顔面蒼白になる。
 慌てて蒼角に駆け寄り、額に手を当てる。
 どうやら熱はないようだ。
 手首に指を当て、脈も図る。
 こちらも問題なし。

「……蒼角ちゃん、もしかして今日女の子の日?」
「え? なんの日?」
「コホン! ……浅羽隊員、ちょっといいですか?」
「あーっ副課長! 今のはうっかり言っちゃっただけで――」
「……とにかくこっちへ来てください」

 柳に手招きされ、悠真は肩を落としつつも彼女の方へと寄って行く。
 これはまた怒られるな、と思ったものの……柳の表情は少し暗く、悠真は不思議に思った。
 二人は蒼角から離れるようにしてオフィスの隅で小声で話し始めた。

「……実は朝からあの調子なんです」
「え?」
「朝から、全然食べてくれないんです」
「食欲がないって言ってましたね」
「うーん……でも、お腹は減ってる様子なんです」
「??」

 悠真が状況を飲み込めないでいると、遠くから『ぐううう~』という音が聞こえてきた。誰の音かなど疑う余地もない、蒼角のお腹の音だ。

「蒼角ちゃんが食べないなんて……一体何があったんですか? 」
「それがよくわからなくて……朝ベッドでうなされていたので何か良くない夢を見たのかもしれませんが」
「夢??」

 悠真はもう一度蒼角の方を見る。
 ソファに寝転がっている蒼角が悩まし気に「はあ」とため息を吐いていた。

「蒼角は、私には話してくれませんでしたが……恋人のあなたにならきっと話してくれるかもしれません。なので、今日一日様子を見てあげてくれませんか?」

 柳にそう頼まれたものの、悠真は「うーん」と腕を組んで首を傾げた――。

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