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午前の業務を終え、六課も昼休みへと入った。
悠真は蒼角のデスクへとやってくると、にっこり微笑みながら蒼角の顔を覗き込む。
「蒼角ちゃん、お昼行こ!」
「うーん……」
弱弱しい返事をした蒼角の顔は真っ青……は、いつも通りなのだが、どうにも元気はなさそうだ。
朝から何も食べていないらしいのだから、元気が出るはずもない。
「ほらほら、なんか食べないとさぁ? 午後の業務にも支障出るんじゃない?」
「ううー……それは、そうだけどぉ……」
「んじゃさっさと食堂へレッツゴーだよ! 僕がおんぶして連れてってあげよっか~?」
「いいよぉ、ハルマサ疲れちゃうもん」
はあ、と大きなため息を吐いて蒼角は立ち上がった。
とぼとぼと歩く様子はいつもの彼女らしくなく、見る影もない。
「……蒼角ちゃん、そんなに猫背になってるとさらに体ちっちゃくなっちゃうよ?」
「いーもん、ちっちゃいままで」
「ふーん……??」
――食堂へ辿り着くと、蒼角はすんすんと鼻を鳴らした。
いい匂いが充満しており、お腹の音も更に大きく鳴る。
「蒼角ちゃんは何食べるの? 僕はどうしよっかなー、全然お腹減ってないんだけど」
「………」
メニュー表を見る蒼角の視線が、カツ丼を捉える。
いつもであればすぐさま「カツ丼特盛!」と注文しにいくのだが……蒼角の動きはのろのろとして、ようやくカウンターへ向かったかと思うとかすれるような声で――
「……野菜炒め定食、ひとつ」
「え!?」
蒼角の頼んだものに、悠真は思わず驚きの声を上げてしまった。
何故なら以前悠真が野菜炒め定食を食べていた際に横からつまみ食いした蒼角は「これでお腹いっぱいになるの~!? 葉っぱだけ食べても食べた気しないよぉ~!」と言っていたからだ。
「蒼角ちゃん、ほんとにそれで足りるの?」
「………」
「あとでお腹減ったーとか言わない?」
「………」
「はぁー、今日はほんとにどうしちゃったわけ??」
「だって……」
「?」
「だって、わたし、おっきくなったら嫌われちゃうもん……」
蒼角の言った言葉をすぐには理解できず、悠真は首を傾げる。
それからしばらく二人の間を沈黙が流れ、その後注文した定食が手渡されて二人は近くのテーブルへとついた。
食べている間も静かで、黙々と野菜定食を食べる蒼角。
悠真は奇妙な生き物でも見るように、彼女を見つめていた。
「……これは困ったな」
眉を下げ、悲しそうに野菜炒めを咀嚼する蒼角を見ながら、悠真はお茶を啜っている。
その後、午後の業務へ入ったわけだが……いつもに比べてまともに食事を取れていない蒼角は、幾度もふらふらとして倒れそうになっていたのだった――。

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