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帰りの電車、車窓の外は真っ暗。
蒼角は疲れたのか悠真の肩に頭を寄せて寝ている。
「あーあ、よだれ垂らして寝ちゃって。まったく」
そして左ポケットからハンカチを取り出して、それを拭った。
綺麗になった蒼角の顔を見て、悠真は小さくため息を吐く。
──タタン、タタン。
──タタン、タタン。
電車の規則的な音が、少しだけ彼を眠りに誘う。
抗う必要もなく目を瞑れば、今日の海辺での蒼角を思い出した。
(とっても綺麗だった)
(僕の走馬灯にいろんな君が映し出されてくれるなら、僕は何も怖いものなんてないな)
(あんなにも美しい景色なら、死ぬ間際だけじゃなくっていつだって思い出そう)
(たくさんたくさん瞼の裏に描いては)
(僕だけの心の奥にしまっておくんだ)
──タタン、タタン。
──タタン、タタン。
とん、と悠真は自分の頭を蒼角の頭に寄せた。
彼女の寝息を聞きながら、
自分の心音を確かめる。
正しく動いてることにほっとして、
息を吐いた。
「また来ようね、蒼角ちゃん」
<了>
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