ザ・カールズ。
キャストは全員ボンプのホームコメディドラマ。
この物語が好きな子どもは多い。
始まってすぐボンプたちが食卓につくと、実際には彼らが食べることのできない美味しそうな朝食が並んでいた。
「わああ……!」
蒼角は食事のシーンで感嘆の声を上げると目を輝かせてテレビに釘付けになった。テーブルに手をついて身を乗り出すようにしている。その様子を見ていた悠真は苦笑いをした。
「蒼角ちゃんってば、よだれが落ちそうだよ」
「ふえっ!?」
慌ててじゅるりとよだれを吸い込む蒼角。しかしまたしばらくして食べ物が映るシーンになると、たまらずよだれが垂れてきた。
「あのさぁ……空腹でもなくお菓子もジュースも目の前にある状態なのになんでよだれが出るかね?」
「はわっ、じゅるる……だ、だってぇ……すっごくおいしそうなんだもん!」
蒼角がよだれをまた啜った。しかし口から垂れてしまっているよだれは口の中へと戻っていくことはない。悠真は呆れたようにポケットからハンカチを取り出すと蒼角の口を拭った。
「んむっ!」
「全く赤ちゃんなんだから」
「むむむむ」
「ほらほら、美味しそうな食事のシーンになったらよだれが出ないようにドンドンお菓子でも突っ込んでなさいよ」
「ふぁーい」
蒼角は買ってきたお菓子やジュースに端から手を伸ばす。
もぐもぐと咀嚼し、
ごくごくと喉に流し込み、
そうしていれば必然的に、彼らは特に会話をすることもなく黙ってビデオを見ることとなった。
ザ・カールズはキャスト全てがボンプではあるが、それは目まぐるしく展開される《人間》ドラマだ。笑いを誘う演出は多岐に渡り、可愛らしい演技はもちろん魅力的。ニコニコ笑ったり怒ったり泣いたり、飛んだり跳ねたり転んだり。そして最後には全てが丸く収まり、幸せな家庭の様子を映す。
「………………」
それを、
蒼角は表情を変えることなくじっと見ていた。
繰り返されるコメディドラマ。
淡々と口に運ばれるお菓子。
減りゆくジュース飲料。
静かな呼吸音と、
何かを想う瞳。
「……ハルマサ」
「ん?」
「この子たち、楽しそうだね」
「そうだね」
「おうちがこーんなに楽しいなら、この子たち、みーんな幸せだよね」
「………」
ポテトチップスの大袋を抱えた蒼角と、
テーブルに肘をついた悠真は、
ただ静かに画面を見つめていた。
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