「や、迎えに来てあげたよ~蒼角ちゃん」
「ハルマサ! どうしてどうして??」
「だって蒼角ちゃん、一体どうやって帰ってくるつもりだったわけ?」
そう言ってハルマサがポケットから出したのは──蒼角のパスケースだった。
「あ! え!? あれれ、蒼角のパスケースどうしてハルマサが持ってるの~!?」
「あのね、これデスクの上に置きっぱなしだったよ? ホロウ任務の時に置いてったんでしょ? まったくもー、これがないと地下鉄も乗れないでしょうに。はいどーぞ」
悠真はそう言うと手の中のパスケースを蒼角へと渡した。蒼角は「ありがと」と受け取る。よくよく見ても、これは自分のパスケースである。ちゃんと中には地下鉄バス共通のカードが入っている。紛失に気づいていなかった自分の失態に蒼角は「あちゃあ」と恥ずかしそうに笑った。
「……さあ蒼角ちゃん」
「ん?」
「帰ろっか」
座っている蒼角に向けて、差し伸べられる手。
呆れつつも、優しい笑み。
過去の記憶になりつつある「ねえね」の優し気な表情が 蒼角の中で思い起こされる。
「……っ、う、ん! 帰ろ!」
悠真の手を取り、少しだけ泣きそうになった目をぎゅっと瞑った。
「──でもなんでハルマサが来たの~? ナギねえじゃなくて」
「君のママはとっても大忙しだからね~、僕がわざわざ立候補してあげたってわけ」
「そうなの!? じゃー早く帰らないと! ハルマサのお仕事後回しになっちゃうもんね!」
「んー……うんまあそうだけど僕はもっとゆっくり帰りたいかなぁなんて……」
「ほらほらハルマサ早く! あ、治安官さんたちお邪魔しましたー!!」
蒼角は悠真の手を掴み、騒がしくも二人はルミナ分署を出ていく。そしてすぐ傍の地下鉄駅へと向けて、駆け出した。
「ハルマサ、お迎えありがと」
ちょっぴり胸がきゅっとなる中、
蒼角は大きな手の温もりを静かに感じていた。
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