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──H.A.N.D.から自宅までの帰り道、蒼角は高熱のせいで寝ぼけていた悠真のことを思い返していた。結局悠真は起きた時にこのことを覚えてはいなかった。帰りに玄関で訊いてきたのも確証がないからだ。
「覚えてても恥ずかしいけどね~、あはは」
蒼角は一人笑いながら自宅の鍵を開ける。中に入ると誰もいないのにもかかわらず「ただいま~」と声を上げた。暗くしんとした部屋は寂しい為、蒼角はすぐに明かりを点け、テレビを点ける。その音を聞きながら、着替えを始めた。下着姿になった時、自分の胸を見てしまう。
「うーん、わたしもボスやナギねえみたいにおっきくなるのかなぁ」
ふにふにと触ってみるが、どうしたら大きくなるのかと頭をひねる。そしてこの胸に抱かれた悠真を思い出した。
「………?」
胸の奥がぎゅっとなる。
トクントクンといつもよりも鼓動が速くなる。
ふいに、自分の名前を呼ぶ悠真の声が脳内でリピートされた。
「……わ。なんか、あついかも。もしかして蒼角もお熱!?」
慌てて体温計を探しに行くが、背後でピロロンと音が鳴った。スマホの通知音だ。結局体温計を持ってくることなく、蒼角はテーブルの上に置いていたスマホを取った。柳からのメッセージだった。
「ナギねえもう終わったんだ! はやーい!」
嬉しさですぐに返事を返す。だが程なくして、自分が少しがっかりしていることに気が付いた。
「……ハルマサかと思ったけど、違ったや」
そう呟いて、蒼角はルームウェアを着る。
冷蔵庫を開けて、飲み物を取り出した。
ジュースをコップに注ぐ間、
それを喉に流す間、
コップから口を離すまで。
頭には悠真の顔が離れなかった。
「……あ、れ?」
ぶわわわっ、と鳥肌が立つのと同時に全身が熱くなる。
ぺたぺたと頬を触ればあまりの熱さに自分でも驚く。
「あれれ」
へなへなと力が抜けていき、床にぺたんと座り込んだ。
蒼角は両手で頬を触り、目をぱちくりとさせる。
そして、スマホをポケットから取り出すとメッセージアプリを開いた。
相手はもちろん、悠真だ。
『ねーハルマサ』
『蒼角ちゃん、どうかした?』
送ってからすぐ、返事が届く。
それを見て蒼角はさらに頬が熱くなる。
『あのね』
『多分』
『ハルマサのお熱うつった』
『え!?』
蒼角はスマホをぎゅっと抱きしめ、目もぎゅっと瞑った。
「だってお熱じゃなかったら、変だもん」
誰もいない空間でひとり、蒼角は声を震わせる。
ピロン、ピロン、と立て続けに鳴る通知音に更に胸を高鳴らせる。
蒼角は自分の変化に戸惑いを隠せずにいた。
「──なんでわたし、ハルマサにぎゅーってしたいって、思ってるんだろ」
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