「ハルマサー! おはよーっ!」
大きな朝の挨拶と共に、ドンッという衝撃が腰に響く。浅羽悠真は「ぐえっ」と呻き声を上げながら前に倒れそうになった。
「なな……何!?」
「おはよ!」
見れば蒼角が悠真の腰にしがみつくように抱き着いていた。
「おはよ蒼角ちゃん。あのね、急にこんなことされたら僕出勤してすぐ病院行きになっちゃうよ」
「ごめんなさぁーい」
蒼角は言葉だけで反省する素振りもなくするりと横を通り抜け、先に職場へと入っていく。悠真はその後ろをついていきながら「おはよーございまーす」と上司へあくびまじりの挨拶をした。
──蒼角と悠真が『毎日ぎゅーする』という約束を交わしてから、数日が過ぎていた。蒼角は挨拶がてら抱きついてくるようになり、悠真もそれに慣れ始めている。そしてそのことに、悠真は安堵していた。
(……これくらいなら兄を慕ってる、みたいなもんだよね。もしかしたら蒼角ちゃんが僕のこと好きになっちゃうかも? なーんて自意識過剰なこと考えたりしちゃったけど。ま、一安心ってところ? 僕も蒼角ちゃんのこと変に意識しないように気を付ければ~、ま、大丈夫でしょ。いつもどおり、いつもどおり)
ふっ、と一人笑いをし、それからデスクに向かう。
今日はいかにして仕事を抜け出しズル休憩してやろうかと悠真は考え……
それから程なくして傍らにドンと書類の山が置かれる。
見ればそこにはにこりと微笑んだ月城柳副課長。
悠真は青い顔でにこりと笑みを返した。
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