#15 肺と心臓 - 6/7

 ──火鍋屋の隅の席で、からんからん、と箸が落ちる音が響いた。

「……あっ、す、すみません」

 柳は慌てて床から箸を拾い上げる。気づいた店員がそれを受け取って新たな箸を柳に手渡した。

「む、どうした柳」

「い、いえ……そんなことを、話していたとは思わなくて」

「お前も知らない蒼角が、まだいるということだな」

「そうですね。どれだけ一緒に暮らしていても……あの子の心を全て理解してるわけではありません。もっと知りたいと、常々思ってはいますが……」

「誰にだって表に出しにくい本心がある。蒼角は自分で隠し事をするような性分ではないが、かといって全てを(さら)け出しているわけでもない。成長と共に出てくるものもあるだろう」

「成長……」

「……柳、肉が硬くなりすぎてしまう。食べると良い」

「……そうですね」

 二人は鍋に箸を差し入れた。

 浮き上がる肉の表面を見つめ、

今の会話を頭の中でかき混ぜる。

(まこと)に鬼とは、恐ろしくも美しいな」

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