ビリーのとある一日 - 2/7


 ***

「……は~、いっぱいあるな~。これって確かニコが買いまくってたブラインドフィギュアだよな。シークレットは数万ディニーになるって話だったっけ……? まあそれだけ儲けりゃボーナスにはなるけどよぉ」

 陳列棚の前でうーんと唸るビリーの後ろを、女子高生二人が通ろうとした。何やら真剣な様子で会話をしていた為、ビリーはつい聞き耳を立ててしまう。

「今日当てれなかったらマジで落ち込むんだけど……」
「大丈夫だよ、私の分の運も使えばいいからさ! 何個まで買える?」
「五個……いや、十個はいける……」

 ――学生も少ない小遣いで苦労してんだなぁ、とビリーはほろりと心の涙を流す。……が、多分学生の小遣いより自分の小遣いの方が少ない時もあるんじゃなかろうかと思うと嫉妬の念を抱きそうになった。

「ま、やっぱ俺はその少ない小遣いをスタナイの為に貯金しておかないとなぁ!」

 即刻5%OFFクーポンの使用を諦め、ビリーはホビーショップを後にしようとする。が、後ろで女子高生が「あれっ?」と声を上げた。

「ちょ、ちょっと待ってそこの機械人!」
「あ?」

 女子高生に引き留められ、ビリーは驚きながらも足を止める。すると女子二人はビリーの手元に視線を集中させた。

「うそ、この機械人<BOX GALAXY>の5%OFFクーポン持ってるんだけど!」
「クーポンなんて滅多に配られないのに! なんで!?」
「な、なんでってもよぉ……そんな珍しいもんなのか?」

 ビリーの問いに答えるわけでもなく、二人の女子高生は目を輝かせてビリーを見上げた。

「機械人のお兄さん、それ欲しいなぁ~」
「欲しい、すっごく欲しい!」
「ほ、欲しいって言われてもよ。これ俺のボーナスだぜ?」

 ビリーがボーナスと言うと、「ボーナス?」「しょぼいボーナスね」と二人の女子高生は顔を見合わせた。

「しょぼいって言うなぁ!!」
「あ、じゃあじゃあ! そのクーポン買うよ!」
「え!?」

 ビリーは驚き、手に持つクーポンをまじまじと見る。

「これがディニーになんのか?? 買い取ってくれんならこりゃあマジのボーナスだぜ! で、いくらになるんだ??」

 喜ぶのも束の間。
 女子高生の一人が「はい」とビリーに手渡したのは――

「……滝湯谷の、特製煮卵トッピング回数券?」
「こないだ商店街のくじ引きで当たったんだけど、あたしトッピングってしないからさ~」
「ラーメンそんな頻繁に食べてたらお肌荒れちゃうもんね~?」
「いや俺ラーメンは食わな――」
「はい! じゃあ機械人のお兄さん! これで交渉成立ってことで!」

 ひょいとビリーの手からホビーショップのクーポンを取ると、女子高生二人はすごい勢いで近くにあったフィギュアのブラインドボックスをいくつかカゴに詰め込んでレジへと行ってしまった。

「……俺の、ボーナス……」

 しょぼんとするビリーは、今一度手にした折りたたまれた回数券を見た。
 ――特製煮卵トッピング回数券
 ――滝湯谷・錦鯉/ルミナ・スクエア店

「って、これルミナの方のラーメン屋じゃなきゃ使えねぇのかよ!」

 ビリーは頭を抱えながら歩き始めた脚を再度地下鉄の方へと向けたのだった。

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