初めて顔を合わせた時、特例とはいえこんな小さな子に執行官など務まるのだろうかと思った。そしてそれは一週間が経った今でももちろん思っている。ましてやそんな中僕が彼女の“お守り”を命じられるなんて──少々感じた苛立ちを隠すつもりなどさらさらなかった。
「──本日の定例会議には課長と私が参加しますので、その間浅羽隊員と蒼角には調査に出かけてもらいたいと思います」
「え!?」
「浅羽隊員、何か?」
「いや……調査はいいんですけどね? そのー、この子も同行っていうのが……」
僕は隣に立つ小さな青鬼の頭をちらりと見た。ふわふわとした白銀の毛が波打っている。朝起きてから髪は梳かしてきたのか、それとも何をやってもそのうねりに勝つことはできないのか、そんなことはわからない。僕の視線に気付いてなどいない様子で、彼女はどこかぼうっとしたように月城副課長の足元を見つめていた。
「蒼角もそろそろ街中に慣れてもらった方が良いと思いまして。時々私も街へ連れていくのですが、どうしても時間が足りなくて……蒼角がおっかなびっくりしているうちにすぐ帰宅しなくてはいけなくなってしまうんです。今日はちょうど共生ホロウの調査で少し大きな街の近くへ出る用事もありますし、なので──」
「えー、と。待ってくださいね? それって言うのは、なんですか。僕が、この小さな青鬼ちゃんの、お守りをしろってことですか?」
「………………いえ、これはれっきとした業務です」
「今の間一体なんですかぁ!?」
抵抗も空しく、僕と小さな青鬼を置いて二人はオフィスを出ていってしまった。
「えー……と、それじゃ調査だけどぉ……」
僕がそう言い始めたのと同時に、青鬼ちゃんは小走りで自分のデスクへと駆けて行った。一体どうしたものかと視線で追えば、彼女はデスクの下に置いていた鞄の中から何やらがさごそと出している。
「どうしたの?」
「わっ」
僕がひょっと横から覗き見れば、驚いた彼女が手にしていたのは菓子パンだった。
「お、お、お腹が減ってね!? えーっと、何か食べないと元気がでなくって、うーんと……」
「もしかして、さっきは空腹でぼけーっとしてたの?」
「!!」
「副課長の話は聞いてた?」
「き……きいてたよ! えーっと、なんだっけ、あ! 街に行ってご飯を食べてきてって!」
「全く違うよ」
僕のツッコミに、青鬼ちゃんは「あれぇ?」と言って首を傾げている。しかしすぐに手の中にある菓子パンをもぐもぐと食べ始めた。
「はあー……この子と調査なんて、ほんとどうかしてるって」
今度は僕が頭を抱える。この話をまともに聞かない幼子と一緒に調査だって? ボンプを連れて行った方がよほど有意義じゃないか。そう思うも、今日はガリバー隊員は別の課からの要請でホロウ業務に従事していることは知っている。連れていくボンプはいない。
「──もぐもぐ……ごくん。おまたせ! それで、これからどこ行くんだっけ!」
「共生ホロウの調査」
「わかった! じゃー、しゅっぱつ!」
どこへ行くかもわかっていないはずの彼女が先陣を切る。
今日一日、僕がこの子のお守りをするのだと思うとため息を吐かずにはいられないのだった。
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