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ルミナスクエアは平日でも人が多い。地下鉄の駅から出ればすぐにティッシュ配りに出くわし、よくわからない勧誘にも出くわす。だが、機械人であるビリーはそういった人間たちはあまり近寄ってこない。
「俺様だって拳銃 の手入れでティッシュぐらい使うっつーの~。くれって言ったら変な顔しやがって」
ぶつぶつと文句を言いつつ、横断歩道を歩く。行先はもちろん駅前にあるラーメン屋、滝湯谷・錦鯉だ。せっかく回数券を手に入れたんだから、とビリーは奮起している。
「トッピングなんてニコたちもあまりつけることないからな。こういう時に俺が恩を売っておくのもアリだろ!」
そう言って興奮したように向かえば、滝湯谷は人が列をなしていた。時刻は十二時を回ったところだ。お昼時はこっちのラーメン屋も随分混むんだな、とビリーは感心した。
「しゃーねぇ、並ぶか~」
そういや卵ってトッピング代いくらなんだ? などと思いビリーは回数券を手にしながらラーメン屋のメニューを凝視していた。と、それと同じようにビリーの後ろに並んだ工業系の制服を着た男性もビリーの手元を凝視している。
「あ!!」
「え?」
突如後ろに並んでいた人物が声を上げた。
ビリーはびくっと首をすくませ、恐る恐る振り返る。
「な、なんだぁ?」
「すみません、その特製煮卵トッピング回数券って……使います!?」
「そりゃもちろん使うぜ」
「ああっ、その、僕その回数券どうしても欲しいんですが! 僕今ラーメンのお使いを先輩たち3人から頼まれてて、一度自腹で払わなきゃいけなくて、でもトッピングなんてしたら僕のお財布の中身がなくなってしまう……給料日前なのに……」
「ええ~? でも俺もこれ使って親分たちに買って帰りてぇしなぁ」
「そこを何とかお願いします!! あ、もしよろしければこの壊れたボンプをお渡ししますので!」
「こ、壊れたボンプぅ?」
「はい、さっき路地裏で見つけたんですけど。これをバラシて部品を売れば小遣い稼ぎになるかなと思い……でもボンプを解体する為の工具を持ってるわけじゃないのでそれを買うとなると本末転倒ですし……」
「うへぇ……そのボロボンプが気の毒だぜ。しゃあねぇ、そいつを助けてやる為だ。回数券はくれてやるよ」
「ありがとうございます!」
男は五枚綴りの回数券を受け取るとまるで神でも崇めるかのように紙を持って膝をついた。ビリーはその様子に若干引きつつ、ラーメン屋の列をそろそろと抜けていく。トッピング回数券がないのではここにいる理由はない。ひとまず男から受け取った壊れたボンプを小脇に抱えてもう一度地下鉄駅前まで戻ることにした。
「まあ確かに売れるかわかんねーボンプに賭けるより、確実に節約になるトッピング回数券の方がいいよなぁ……あー! 改めて考えても回数券やらなきゃよかった! こんなボンプ持って帰ったところで何にもなんねーじゃねぇかよくっそ~!」
そう言いながらも、意識のないボンプを見て「まあ仕方ないか」と頭をかいた。
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