ビリーのとある一日 - 7/7


 ***

 陽も落ち始め、あたりが仄暗い青に染まり始めた時刻。
 ビリーは心を落ち着けながら邪兎屋の事務所の扉の前に立った。

 ――ガチャ

「た、ただいま戻ったぜー」

 そう言いながら入れば、ニコ、アンビー、猫又が視線も向けずに「おかえり」と声をかけた。

「な、なぁニコの親分」
「ん~?」
「そのーちょっと聞いてほしいことがあんだけどよぉ」
「何よ」

 妙な気配を感じ取ったのか、ソファに座るニコは怪訝そうにビリーを見上げた。

「あ、あのな? 店長たちからスターライトナイトカフェの特別食事券をもらったんだ! これ!!」

 そう言ってチケットを天高く掲げ、キラキラと輝く満面の笑みでビリーは三人に見せびらかす。

「そんなのなんでもらったのよ。あんたの喜びようを見るとかなり貴重なものなんじゃないの?」
「もちろん貴重だぜ! なんてったって配給元のお得意先や出演俳優やその他芸能関係に繋がってないともらえないって噂の券だからな!」
「いくらで買ったの? ビリー」
「だからもらったって言ってんだろアンビー! あ、いや違うか。俺が『ボンプinワンダーランド』って映画の先行上映チケットをあげたからその代わりにー……」
「「「先行上映チケット???」」」

 不思議そうな顔をするニコ、アンビー、猫又に、ビリーは今日一日の出来事を話した。

「――へぇ~、まるでわらしべ長者みたいだ!」
「わらしべ長者? 猫又、それは一体どんな映画?」
「アンビー、これは映画じゃなくて昔話で~」
「ビリー、その食事券売った方がはるかに価値があるわよ。私に寄こしなさい」
「こ、これはニコの親分でもぜってぇ譲らねぇ!!! 俺にとってスターライトナイトは命にも等しいんだぜ!?」
「ったく、ほんとおこちゃまなんだから。ま、いいわ。……ほら、さっさと全員支度しなさい」
「わかったわニコ」
「あ~あ鯖がないとこなんて行く気しないけど、まあ仕方ないかぁ~」
「ビリー? 何突っ立ってんの。ほらさっさと行くわよ」

 ニコが手を差し伸べる。
 ビリーはきょとんとして三人を見た。

「えっ、なんだなんだみんなして」
「何ってバカね、どうせその食事券使いにスターライトナイトのカフェに行きたいんでしょ? ほら、今日ならみんな休みだし一緒に行ってあげるから。それとも何? 一人で行くつもりだったの?」
「あ……いや、もちろんニコもアンビーも猫又も、お前ら全員誘うつもりだったぜ!!」

 先を行ってしまう三人を慌てて追いかけて、ビリーは事務所を飛び出した。

「帰りは全員で写真撮ろうな!」

 バタン、と事務所の扉が閉まった。
 今日は人生のボーナス日だ!
 と、ビリーが思えたのは。
 スターライトナイトカフェの特別食事券だけが理由でないことは
 知能構造体である彼にも十分理解できることであった。


 <了>

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