あの日のおうちまで - 3/5


 ***

 見渡す限り、木、木、木。
 僕と蒼角ちゃんは地図を見ながら×印が書かれたその場所を目指した。
 しかし歩けども歩けども、なかなか辿り着かない。

「蒼角ちゃんは、この森、覚えてるの?」
「うーん……この辺は歩いたことないから……あ、でもなんか見えてきた!」

 そう言って蒼角ちゃんが走り出す。確かに急に開けた場所に出たようだった。僕も追って木々の合間を抜けそこへと出る。
 急に太陽が差し込み、僕は目を細めた。

「見て見てハルマサー! ここ、なんか寂しいね!」

 蒼角ちゃんの声にゆっくり目を開ける。


 ──倒れた大きな木々。

 ──生えそろっていない草。

 ──その痕跡から伺える、放火の事実。


「……防衛軍にやられたあと、ってことか。それとも交戦で……」

 戦争の空気を肌で感じる。

 その後も蒼角ちゃんと一緒に進んでいくと、
 まばらに立ち並んだ逆茂木や、
 防衛の為の木の柵が見えてきた。

 この先が集落であったことは、疑いようもない。

「ここ! ここだよハルマサ!」

 そう言ってずんずん進んでいく蒼角ちゃんの後ろを、置いて行かれないように僕は必死に追った。

「蒼角ちゃん、もう、僕結構疲れたからもうちょいゆっくり……」
「ハルマサ早く早く~!」
「話聞いて……」

 彼女の案内に従って目的の場所へと歩いて行くと、集落の入口らしきものが見えてきた。周りの様子を伺うも、人の気配は感じない。やはり見張りの人間などはいないようだった。ただ、入口には立ち入り禁止のテープが何重にも張られていた。

「うーん、わかっちゃいたけど入ったら怒られそうだね~こりゃ」

 そっと入口から中の様子を伺う。石階段が見え、下まで続いているようだ。どうやら鬼族は地下に穴を掘って暮らしていたらしい。戦時中だからか、防空壕のような役割も果たしていたんだろう。鬼族全てがここに暮らしていた、と考えると……中はかなり広くなっているんだろうな。

 さてここへ入るのか、と僕が肩をすくめる横で、蒼角ちゃんが自分の胸の前で手をぎゅっと握っていた。

「……蒼角ちゃん、怖い?」
「えっ?」
「ほら、テープもあるしさぁ、入るの怖いのかなって」
「………」

 蒼角ちゃんはすん、とひとつ鼻を鳴らすとしばらく階段下の暗がりを見つめていた。さあどうしたものか、と僕が腕を組んだ時だった。蒼角ちゃんは背負っていたリュックの中から懐中電灯を取り出し、それを持ってテープをくぐって中へと入っていった。

「ハルマサ、行こ!」

 意を決したような声。小さな鬼の少女の心の中はわからないが、僕は黙ってその後ろをついていくことにした。

 ゆっくりと石階段を下りていく。途中で蒼角ちゃんが懐中電灯の明かりを付ける。照らされた先はまだまだ階段が続いていて、ようやく階下に着いた頃には入口の明かりが随分遠くに見えた。前を照らせば、木枠がずっと向こうまで続いている。まるで炭鉱のようだ。進んでいくと、時々横穴が現れた。それぞれ部屋になっているのか、何か役割があるのか。調べる間もなく蒼角ちゃんは前へと進んでいく。

「中、真っ暗だぁ」
「そうだね、懐中電灯持ってきて正解だよ」
「えへへ、蒼角えらい!?」
「うんうんえらいね~。僕は探検グッズ何も持ってないから蒼角ちゃん離れないでね。迷子になっちゃう、僕が」
「うん! この中すっごく入り組んでるから、ハルマサ迷子になったらこの中で骨になっちゃう!」
「それ冗談だよね……?」

 僕の問いに、蒼角ちゃんは返事をしなかった。多分冗談ではないだろうことは僕もわかっている。もしかすると道中白骨化した死体なんか落ちてやしないだろうか、と思わず身震いをした。

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