#5 「私はね、私なりに君を愛しているんだよ」 - 2/3


 ――ビリーは機械人だが、もちろん人間の構造についてもよく知っている。
 知識として。
 いや、幾度か実際に生体を見たこともあるのだ。

 郊外にいた頃、シャワーを浴びた後のライトや他の男性と出くわして話すこともあった。彼らはビリーが男性型機体である為か、特段体を見られるのを気にする様子もなかった。そしてビリーも彼ら人間男性に備わっている男性器を見て特に思うこともなかった。いや、思うことはあった。

(なんか邪魔そうだな……?)

 思ったのはそれくらいだ。
 生殖について知識を得ても興味も無い彼にとっては羨ましさという感情に直結することなどなく。今に至るわけだが――

 そして目の前の人間の女性――グレースは首を傾げた。

「ええ? ディルドを君に? なんでまたそんな不必要なものを。あっ、内部構造を自動回転式銃にでもするのかい!? それなら早速設計図を――」
「いやいやいやそんな物騒なもんじゃねぇよ! いやぶっ放すって意味ではあってんのかぁ? って違う違う! そうじゃなくてよぉ……あんたにはそーゆーもんが必要なのかなって」
「ディルドが?」

 ――正直なところ、ビリーは未だグレースを恋人として見ているわけではなかった。
 ダーリンと呼ばれ、ハニーと呼び返すものの、それはただのごっこ遊びであり本心から「愛している」などと思っているわけではなく。
 モニカ様へ向けるのと同じ情熱を彼女に向けているわけでもなかった。

 ただ本当に興味で訊いただけだ。

 人間という生き物は恋人を作る理由として帰着するのはつまるところ「生殖の為である」と、一般論としてビリーの中で定着していたからだ。

「……いいかいビリー、君は火力制圧用高知能戦術素体だ。性的な使用を想定するラブドールじゃない。そんなものいらないよ」
「でもよぉ……あんたは人間だろ? だから、恋人っつーのとはそーゆー関わりが必要なんじゃねーのかなと思って」
「ははっ、お気遣いどうもありがとう。でもね、そもそも私はあまり性的欲求というのがないんだ」

 グレースの言葉にビリーは黙り込む。
 すぐさま理解に辿り着かなかったからだ。

「……大体、そんなものに時間を使っていたら研究が遅れてしまうだろう? 生物の三大欲求すら私の優先順位の上位には入っていないんだよ」
「それで大丈夫なのか? あんたは生身の人間だろ」
「大丈夫さ。それに、子孫を残すっていう意味では、もう私は十分に子を成してる」
「??」
「私の子どもはね、知能機械たちであり……研究論文だ。それらは必ず私が死んだあとも進化を遂げ、繁栄していくはずだ。だからいいんだよ」

 グレースはビリーと会話をしながら、何かを書き止め、タブレットを操作している。
 研究の手は、止めない。

 静かに彼女の表情を伺い、ビリーはまた天井を見上げた。

「………よくわかんねーや」
「ははっ、そうかい」

 そうしてまたカチャカチャと金属がぶつかる音が響く。
 ビリーはグレースの手先を下腹部に感じながら、目を閉じた。

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