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「……よし、終わったよビリー!」
「………」
「ビリー?」
グレースがとん、とビリーの肩を叩いた。
スリープモードだったのだろうか、とグレースが彼の前に回って表情を確認する。
ビリーはグレースと目を合わせるように視線を動かした。
「ああ、サンキューな」
「ビリー、どうかしたのかい? あ、もしかしてメンテナンスが終わって私と離れるのが寂しいのかい!? それならオプションで改造してあげてもいいよ! 手始めに何から始めようか――」
「改造はやめといてほしいけどよぉー……」
「……?」
ビリーは微動だにしない。
グレースはわずかに瞬きをして、それからしゃがみこんでビリーを見上げるようにした。
「ビリー、何を考えてたんだい?」
「……俺はさぁ、この先もずっとお前に修理してもらえんのかな」
そう訊ねるビリーに、グレースはきょとんとした顔でしばし停止する。
「何言ってるんだい。そのつもりだよ? なんてったって私たちはもう恋人じゃないか。末永く連れ添うパートナーだよ」
「そうか……そうだよな。いつの間にか恋人ってやつになってたんだよな」
「急に変なことを言うね、どうかした?」
グレースが首を傾げると、ビリーも真似するように小さく首を傾げる。
「いや、自分の存在意義ってのを、ちょっとばかし再確認してたところだ」
「存在意義?」
首を傾げたまま見つめ合う二人。
グレースが小さく笑った。
「……君はいいね」
「え?」
「実態がどうあれ、存在意義を明確に作られたじゃないか」
「あー……そう、かな?」
「私たち人間は、そうじゃないよ」
「なんでだ?」
「確かな存在意義を決められているわけじゃない。環境や他者に存在意義を決めつけられている場合もあるけれど、でもそれも神様が決めた運命ってわけじゃないんだ。とにかく、自分で作っていくしかないんだよ、そんなものは」
「そういうもんか」
「……でも君も、自分で決めていいんだよ」
「俺も?」
「君は、確かに火力制圧用高知能戦術素体だ。でも、君個人の人格がある。ただの、ビリーでいてもいい。その存在意義は君が決めるべきだ。いや、もう決めたからこそ、ここにいるのかな」
「……ふぅん?」
「わからないかい?」
「いや、そーかもなって」
「ふふっ」
ビリーの膝をひと撫でし、グレースは内腿部分に頬を寄せた。
「君に出会えて本当に良かった。私は私の存在意義をさらに更新できたからね。それにホロウを現場に仕事をする身だからこそ、いつこの命を危険に晒すともわからない。君も私も。今も、この先も」
少しだけ寂しそうな声色が聞こえる。
(……あ)
ビリーはグレースを見つめ、それからその黒髪を静かに撫でた。
(さっきと同じ声のトーンだ)
グレースの頭に手を置いたまま、ビリーは力なく笑った。
「頼むから俺がぶっ壊れるまではあんたが修理してくれよ――」
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