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「──だからね、全部誤解なんだよ」
わたしが十回目くらいの『鼻かみ』をした時にハルマサはそう言った。
その隣ではプロキシとプロキシ……おにいちゃんとおねえちゃんのプロキシふたりが立ってて、ベンチに座ってるわたしを心配そうな顔で見てた。
「はあ、まさかこんなことになるなんて」
「んもー、あんたがうまいこと言わないからこうなったんでしょ~!?」
「リン、そもそも二つ返事で了承した君にも問題があるんだ」
ハルマサはなんだか泣きそうな顔してて、
おねえちゃんのプロキシは唇を尖らせて怒ってて、
おにいちゃんのプロキシはおっきなため息を吐いてた。
わたしはおねえちゃんに買ってもらった『ホットココア』を一口だけ飲んでみるとガラガラになって痛くなったノドに少しだけしみた気がした。
「ただ蒼角ちゃんを笑顔にしたかっただけなんだよ」
わたしの目の前に座り込んだハルマサはすっごく眉が下がってて、前に道端でわたしのお菓子を欲しがっておすわりしてたわんちゃんに似てるなぁって思った。
「そーかく、を、えがお?」
「そうだよ。ほら、デートの時はいつも美味しそうにご飯食べてくれるからついいっぱい食べさせちゃうけど、他に何か物をプレゼントしたいなぁって思って。でもせっかくならびっくりさせたかったから……プロキシたちに頼んで一緒にプレゼントを考えてもらうことにしたんだ」
「そうだったんだぁ……じゃあわたし、びっくりするの下手だったってことかな」
「え? いやいや、そーじゃないけど。ってか、嫌なびっくりのさせ方しちゃったね。ほんと、ごめん」
「………」
ハルマサの手が伸びてきて、
私の目元を親指でこすった。
もう涙は出てないはずなんだけど、どうしてそうしたんだろう。
「リンちゃんに頼んだのはさ、ほら、女の子だから。女の子が何もらったら喜ぶかわかるかな~って。まさか君のママの副課長に聞くわけにもいかないしさ、僕が聞くの嫌がりそうだし。課長に至ってはめちゃくちゃ高級品か逆に頓珍漢な物選びそうだし?」
「とんちんかん?」
わたしが首を傾げると、おにいちゃんのプロキシが「変なものってことかな」って教えてくれた。その横でおねえちゃんのプロキシが悲しそうな顔で腕を組んでた。
「──でもお兄ちゃんの言うとおり、私だけでこなくてよかったぁ。『もしも誰かに見られて誤解されるようなことになったらどうするんだい』なーんて、そんなわけないじゃんって思ったけど。まさか蒼角に見られちゃうなんて思ってもみなかったし……しかもこーんなに泣かせちゃうなんて! 私もまだまだ考えが甘いなぁ」
「いいや、それは僕も同罪さ。蒼角が気づくくらいもっとリンの近くにいればよかったものを、少し離れて別の商品を見てしまっていたからね」
プロキシたちはそう言って顔を見合わせたら、みんな肩を落としてた。
わたしはもうわたしよりもしょんぼりしてるハルマサとプロキシたちを見て、少しだけ落ち着きっていうのを取り戻した。
「……みんな、わたしのためにプレゼントを選んでくれてた、ってこと?」
聞いてみたら三人は少し顔を見合わせて、それからおんなじようにうなずいた。
それがなんだか、胸がむずむずってして、でもざわざわした時とは違っていやじゃなくって、わたしは「えへへっ」て笑っちゃった。
「……ありがとぉ。それで、ハルマサは何を選ぼうとしてくれたの?」
聞かれたハルマサはなんだかちょっと驚いたみたいな顔をして、それから私に手を差し伸べてくれた。
「立てる? 一緒に見に行こ」
ハルマサの手をきゅってつかんだら、軽くひっぱってくれて、私はベンチから立ち上がった。
ハルマサが案内してくれた場所には、いろんな髪飾りが置いてあった。
「どれがいいか迷っててさ。ほら、前髪止めたりするピンとかいいのかなーとか……で、リンちゃんはこっちの髪留めがいいんじゃないのって。あとはー……」
ハルマサが見せてくれた髪飾り、どれもキレイで、かわいくて。
「蒼角ちゃんはどれがいい?」
そう聞いてくれたけど、わたしはううんって首を振った。
「今日は選べない、かな。えっと、また今度! また今度ー……ハルマサと、プロキシたちと、蒼角で一緒にお買い物来てもいい?」
「えっ? 私たちも? それは全然いいけど……」
「僕たちも、っていうのは、どうしてだい?」
プロキシふたりに顔をのぞきこまれて、わたしはちょっと恥ずかしくなった。けど、笑って返事をした。
「みんなで選ぶ方が、きっと楽しいもん」

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