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プロキシたちにばいばいしたあと、わたしとハルマサは地下鉄の駅を目指して歩いた。
ハルマサはぎゅ~~~~って、わたしの手を握ってて。絶対にはなそうとしなかった。
「……あのね、ハルマサー」
「ん?」
「わたし、すっごく怖くなったの」
「……うん」
「ハルマサがね、わたしじゃない人とお出かけして、楽しそうにして、もしかしたらわたしよりも他のひとの方が好きになっちゃうかもって」
「………」
「すっごくすっごくヤで、わたし、子どもみたいに泣いちゃった。えへへ、かっこわるいね」
「かっこ悪くないよ」
ハルマサの手にぎゅーって力が入ったかと思うと、ゆるんで、今度はわたしの指と指の間に、ハルマサの指がするするって入ってきた。
「少し考えれば僕だって……そんなこと嫌なはずなのにさ」
「ハルマサも、いや? それって、蒼角が、他のひとと出かけること?」
「そうだよ」
「蒼角が、誰かとおしゃべりすること?」
「そう」
「誰かとご飯を食べたり」
「うん」
「誰かとお手てつないだり?」
「……!」
「……しないよ?」
ハルマサの顔が、
すっごく悲しそうな顔をしたから。
わたしも悲しくなっちゃった。
でも、ちょっとだけほっとしたの。
わたしが感じた気持ち、ハルマサも感じるんだなぁって。
「……ハルマサぁ」
「ん?」
「今日、選べなかったのはね」
「うん」
「もし今日、プレゼントもらったとしても、きっとそれを見るたびに悲しい気持ちを思い出しそうな気がしたから」
「あ……」
「だからね、楽しい気持ちでいられるように、また今度、にしたの」
「うん、ごめんね」
「……それでね」
「?」
今度はわたしが
ぎゅーってハルマサの手を握った。
ハルマサの方を見てみたら
ハルマサもわたしを見てた。
地下鉄のアナウンスが聞こえてきて、ごおおーって風と一緒に電車がやってきたの。
それでドアが開く前に
屈んでくれたハルマサの耳元で、こそこそって言ってみた。
「悲しいことは全部ほんとじゃなかったんだって、信じたいから、今はハルマサをわたしがヒトリジメしたいなって思ったんだ」
「──帰るのもうすこしだけ遅くなるって、ナギねえに言ってもいいかなぁ」
わたしの言葉を全部聞いたあとでハルマサはまた泣きそうな顔してた。
それで
ぱっと手をはなしたかと思うと
わたしのことぎゅって抱きしめてくれた。
「……ハルマサ、お外でこーゆーことしていいの?」
「……だめかも」
「ハルマサのおうち、行く?」
「そこまで我慢できない」
ハルマサはそう言うと、乗るはずだった電車のドアが閉じる前にわたしの手を引いて歩き出した。
「……月城さんには、少しご飯に連れていきますって連絡するから」
「うん」
「……2時間、2時間だけ僕に時間ちょうだい」
「うん」
「不安にさせた分めいっぱい埋めてあげるから」
「うん」
早歩きになって
階段を登って
またルミナスクエアの横断歩道に出て
少しだけ歩けば見えてきた場所。
「……もう絶対不安にさせないから」
急いで入った『お部屋』の先で
わたしはハルマサにぎゅううーって、抱きしめてもらった。
さみしかった分
ぎゅううーって。
わたしのお目目からはもう涙は出てこなかったけど
ぽろぽろって落ちてきたハルマサの涙を舐めて
ハルマサの頭を抱きしめた。
ぜーんぶ
蒼角の。
ぜんぶ、ぜんぶ、ぜーーーんぶ。
蒼角、前よりはちょっぴり大人になったから
もし誰かにゴハンをちょーだいって言われても
少しだけならあげられるけど
ハルマサだけは
誰にもあーげない。
「ハルマサだいすき」
あったかい体に、ほっぺをすりすりした。
<了>

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