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「もーやだよー行きたくないよ~~~」
「………」
昼時に屋上へとやってきた悠真と蒼角はそこで昼食を取っているのだが、ハンバーガーをもぐもぐと食べる蒼角に、悠真は横からひしっと抱き着いたまま離れようとはしなかった。
「だってさぁー、勉強会なんてしちめんどくさいことわざわざしに行くってのが最初から無理すぎるし~」
「………」
「しかもさっき確認したら午前も午後も休憩なしだよ!? 僕へろへろになっちゃうってぇ」
「………」
「はあー、唯一の楽しみはご飯くらいか」
「ごはん!?」
それまでずっと口の中で食べ物をもごもごさせていた蒼角が、ようやく口を開いた。
「ごはんって何食べるの!?」
「ええ……いや、何食べるかは知らないけど、一応明日から行くとこが有名なレストランが入ってるホテルで──」
「美味しいごはん食べ放題ってこと!?」
「食べ放題かは……いや、夜はビュッフェスタイルって書いてたからそうなのか」
「いいなぁいいなぁ! ハルマサずるい! 蒼角だっておべんとーしたい!」
「おべんとーじゃなくて、おべんきょーしに行くの」
「おべんきょー」
悠真はようやく蒼角から体を離すと、その白くてふわふわとした髪の毛を優しく撫でた。
「一緒に連れてって食べさせてあげたいけどね~。でも月城さんが怒るから……二人分は経費で落ちないって」
「ケーキ?」
「けいひ」
わしわしと撫でられると蒼角はぎゅうっと両目をつぶった。そして目を開ける直前に、口元に何かを感じた。湿った何か。
「?」
「口にソースついてたよ~」
「ハルマサ、食べたの?」
「うん」
「このハンバーガーのソースね、すっごく美味しいでしょ! もう一個あるから食べる?」
「食べな~い」
「あれれ?」
きょとんとして首を傾げる蒼角。悠真は笑った。
「……仕方ないな、じゃあ出張先で蒼角ちゃんが喜ぶようなお土産でも探してくるか~」
「お土産!? ごはん!?」
「うんうん、食べ物買ってきてあげるから」
「やったー!」
ごっはん、ごっはん♪ とリズムよく歌いながら蒼角は次のハンバーガーを頬張っている。悠真も自分の昼食である野菜ジュースのパックにストローを挿すとちゅううと吸った。
「蒼角ちゃん、ごはんで何が一番好き?」
「え!? えーとねぇ、うーんとねぇ……うーん決められないよぉ!」
「あははは」
「あ!」
「ん?」
「みんなで食べるご飯、蒼角好きだよ!」
「うんうん、そうだね」
「ハルマサと食べるご飯も大好き!」
「うん」
「……明日から、ハルマサと一緒に食べれないんだぁ」
急に出張を理解したのかしょんぼりとする蒼角に、悠真はまたわしわしと蒼角の頭を撫でた。
「寂しくなっちゃった?」
「うん」
「ふふっ、僕だけじゃなくて良かった」
蒼角はハンバーガーを食べ終え、口の周りをぺろりと舐めると悠真に抱き着いた。
「蒼角もぎゅーってしておこ!」
「お、うっ、うん……力加減は優しくね……」
「ぎゅうううううー!!!」
「ぐはっ」
か細い息をする悠真を、蒼角は力の限り抱きしめた。

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