***
翌日、他の参加者と共にバスに揺られて別の地方へと向かった悠真は午前も午後も逃げられぬ環境で青い顔をしていた。
「──浅羽!」
そして今、夕食の会場であるホテル内のレストランを出ると後ろから声を掛けられた。振り返るとそこにいたのは四課と五課の執行員だ。
「このあとみんなで飲みにって誘われてただろ、行かないのか?」
「行きませんよ。一日目から元気ですね、あんたらは」
「酒が嫌なら別に飲まなくてもいいんだぞ」
「僕は遠慮しておきます、行くとこあるんで」
「行くとこぉ?」
訝し気な声。
それを振り払うように悠真は彼らに背を向けてひらひらと手を振った。
もう片方の手はスーツのポケットの中のスマホを探している。
取り出したそれを軽く操作し、耳に当てた。
「──あ、蒼角ちゃん? お仕事終わった? ご飯は? 僕はねぇ……」
耳に伝わる電子音に笑みを浮かべながら、悠真はホテルの廊下を歩いて行った。一日あったことを話し、笑い、そしてまた明日を言って通話は切れる。その頃にはホテルの外で少し肌寒い風を感じていた。
「今日は何を買おうかな、明日は何が見つかるかな。一週間あるんだ、あの子が気に入るもの全部買って帰ってあげよう。その喜ぶ顔を見れば僕の一週間の寂しさだって紛れるはずさ」
一週間後に持って帰るたくさんのお土産にきっと目を輝かせるであろう蒼角を想い──知らぬ土地でひとり悠真は鼻歌を歌うのだった。
<了>

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます