#10 ゲーセンと囁き - 4/5

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 ゲームセンター《GOD FINGER》は小さな店舗だが、中はたくさんの人で混雑していた。常連客に加え、アキラが言っていたキャンペーンにつられてやってきた客も半分はいそうだ。壁に貼られていたキャンペーンのチラシによれば、本日1プレイ無料になるのはスネークデュエルとのこと。蒼角はあまりの人だかりに緊張するのか、悠真の後ろに隠れながらおずおずと筐体(きょうたい)へ近寄っていく。

「……席、一つしか空いてないね?」

「そうだね~。じゃ、蒼角ちゃん座ってよ」

「ええー!?」

「だいじょぶだいじょぶ。僕が後ろから見ててあげるから」

 悠真に促され、蒼角はしぶしぶとスネークデュエルの筐体前に置かれた椅子に座る。近くにいた店員に1プレイ分無料になるよう操作してもらい、ゲームを始める。

「う、わわ……ああー!」

 ゲームが始まるなり蒼角は操作に戸惑い、すぐに相手にぶつかり何度も失敗してしまう。

「えっとえっと、こっち、あーこっち! んーうまくよけれないよ~!」

 泣き言を言いながらもどうにか蒼角のスネークがダイヤをゲットするが、すぐさま他のプレイヤーにぶつかってしまいまた最初からだ。あっという間に終わってしまった『無料の1プレイ』は蒼角を撃沈させるのに十分な時間だった。

「うう、うううー……ヘビさん、ムズカシイよぉ……」

 泣きそうな顔で筐体に突っ伏す蒼角を見かね、悠真が笑って肩を叩く。蒼角が振り返ると、「じゃ、僕も一緒にやったげるから」と悠真は言った。

「もうちょっと前に座って」

「え? えーと、こう?」

「そーそ」

 蒼角が少し前にずれて座ると、椅子の後ろの空いた部分に悠真は腰を下ろした。まるで蒼角を抱きかかえるような座り方をすると、ディニーを筐体へ一枚入れる。

「じゃ、僕がやってんの見てて。って言っても、僕もそんな上手くないけどね~」

「う、うん!」

 蒼角は背中にぴたりと悠真がくっつく感覚に少しどきりとする。どくどくと心臓が早まり始めたが、目の前のゲームが始まるとそちらに集中した。悠真の動かすヘビはぐねぐねと動き、あっという間に近くの魔メやダイヤを飲み込んでいく。

「すごいすごーい!」

 蒼角が歓声を上げると、「アハハッ!」と悠真は幼い子どものように笑った。その声がすぐ耳元で聴こえ、蒼角はまた心臓が飛び上がる。

(……ハルマサの声、いつもより近い)

 蒼角がどきどきとしたまま画面を見つめていると、制限時間が迫り、そして悠真が操っていたヘビは他のプレイヤーに阻まれせっかく長くなった体は一瞬にして消えてしまった。

「あーっ!!」

「あちゃ~」

 残り時間は数秒。

 どうにか操作するものの、結局悠真はビリになってしまった。

「あーらら。途中まで良かったのにね」

「もっかい! ハルマサもっかいやって!」

「ええ~? 次は蒼角ちゃんがやったらいいよ」

「わたしハルマサがやるのもっかい見たい!」

「仕方ないな~」

 そう言ってもう一枚ディニーを筐体へと入れる。他のプレイヤーは別の客と交代したのか、少しマッチングに時間がかかっていた。蒼角はわくわくとした表情でそれを待っている。

「……蒼角ちゃん、たのし?」


 耳元でぼそりと囁かれた声。


「っ……うん! たのし!」


 どっと心臓が波打ったのをかき消すように、蒼角は大きな声を上げた。


「そっか、それはよかった」

「ハルマサは!?」

 店内BGMに負けないよう蒼角は更に声を張り上げて訊く。少しだけ振り返ろうとすると、すぐ横にあった悠真の顔に頬同士が触れ、蒼角は「ひゃぅ」と小さな悲鳴を上げた。

「ごめん」

「う、ううん、蒼角もごめんね! あはは、思ったよりハルマサ近かった~」

「ん、どうやらマッチングできたみたいだよ」

 悠真がそう言うと蒼角ももう一度前を向く。次のバトルが始まる。悠真が手元をカチャカチャと動かすと、ヘビはぐねぐねと動き、魔メを飲み込む。上手くいく度蒼角は「すごいすごい!」「スピードアップ~!」と楽しそうに声を上げた。

「次は蒼角ちゃんね」

「ええ~、蒼角上手くできるかな~……」

「上手くなくてもいーの。頑張ってやってみてよ」

「はぁーい」

 そう言っていると、そのバトルは悠真が1位で終了した。蒼角は自分のお財布を取り出そうとしたが、悠真の右手がそれをやんわりと止めさせた。

「ディニーは僕が入れておくからさ、蒼角ちゃんは月城さんから連絡ないか見てみなよ」

「あ、うん。ありがと! ナギねえからは~……」

 蒼角はスマホを確認すると、メッセージが届いていたことに気が付いた。

「あ、今向かってるみたい!」

「じゃああと二回くらいやったらやめておこうか。その後はビデオ屋でちょっと待たせてもらえばいいんじゃない?」

「うーん、そうだね! 少しくらいなら……メーワクにはならないよね」

 そう話していると、あっという間に開始のカウントダウンが始まる。蒼角は慌ててボタンへ手を伸ばした。

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