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ゲームセンター《GOD FINGER》は小さな店舗だが、中はたくさんの人で混雑していた。常連客に加え、アキラが言っていたキャンペーンにつられてやってきた客も半分はいそうだ。壁に貼られていたキャンペーンのチラシによれば、本日1プレイ無料になるのはスネークデュエルとのこと。蒼角はあまりの人だかりに緊張するのか、悠真の後ろに隠れながらおずおずと筐体へ近寄っていく。
「……席、一つしか空いてないね?」
「そうだね~。じゃ、蒼角ちゃん座ってよ」
「ええー!?」
「だいじょぶだいじょぶ。僕が後ろから見ててあげるから」
悠真に促され、蒼角はしぶしぶとスネークデュエルの筐体前に置かれた椅子に座る。近くにいた店員に1プレイ分無料になるよう操作してもらい、ゲームを始める。
「う、わわ……ああー!」
ゲームが始まるなり蒼角は操作に戸惑い、すぐに相手にぶつかり何度も失敗してしまう。
「えっとえっと、こっち、あーこっち! んーうまくよけれないよ~!」
泣き言を言いながらもどうにか蒼角のスネークがダイヤをゲットするが、すぐさま他のプレイヤーにぶつかってしまいまた最初からだ。あっという間に終わってしまった『無料の1プレイ』は蒼角を撃沈させるのに十分な時間だった。
「うう、うううー……ヘビさん、ムズカシイよぉ……」
泣きそうな顔で筐体に突っ伏す蒼角を見かね、悠真が笑って肩を叩く。蒼角が振り返ると、「じゃ、僕も一緒にやったげるから」と悠真は言った。
「もうちょっと前に座って」
「え? えーと、こう?」
「そーそ」
蒼角が少し前にずれて座ると、椅子の後ろの空いた部分に悠真は腰を下ろした。まるで蒼角を抱きかかえるような座り方をすると、ディニーを筐体へ一枚入れる。
「じゃ、僕がやってんの見てて。って言っても、僕もそんな上手くないけどね~」
「う、うん!」
蒼角は背中にぴたりと悠真がくっつく感覚に少しどきりとする。どくどくと心臓が早まり始めたが、目の前のゲームが始まるとそちらに集中した。悠真の動かすヘビはぐねぐねと動き、あっという間に近くの魔メやダイヤを飲み込んでいく。
「すごいすごーい!」
蒼角が歓声を上げると、「アハハッ!」と悠真は幼い子どものように笑った。その声がすぐ耳元で聴こえ、蒼角はまた心臓が飛び上がる。
(……ハルマサの声、いつもより近い)
蒼角がどきどきとしたまま画面を見つめていると、制限時間が迫り、そして悠真が操っていたヘビは他のプレイヤーに阻まれせっかく長くなった体は一瞬にして消えてしまった。
「あーっ!!」
「あちゃ~」
残り時間は数秒。
どうにか操作するものの、結局悠真はビリになってしまった。
「あーらら。途中まで良かったのにね」
「もっかい! ハルマサもっかいやって!」
「ええ~? 次は蒼角ちゃんがやったらいいよ」
「わたしハルマサがやるのもっかい見たい!」
「仕方ないな~」
そう言ってもう一枚ディニーを筐体へと入れる。他のプレイヤーは別の客と交代したのか、少しマッチングに時間がかかっていた。蒼角はわくわくとした表情でそれを待っている。
「……蒼角ちゃん、たのし?」
耳元でぼそりと囁かれた声。
「っ……うん! たのし!」
どっと心臓が波打ったのをかき消すように、蒼角は大きな声を上げた。
「そっか、それはよかった」
「ハルマサは!?」
店内BGMに負けないよう蒼角は更に声を張り上げて訊く。少しだけ振り返ろうとすると、すぐ横にあった悠真の顔に頬同士が触れ、蒼角は「ひゃぅ」と小さな悲鳴を上げた。
「ごめん」
「う、ううん、蒼角もごめんね! あはは、思ったよりハルマサ近かった~」
「ん、どうやらマッチングできたみたいだよ」
悠真がそう言うと蒼角ももう一度前を向く。次のバトルが始まる。悠真が手元をカチャカチャと動かすと、ヘビはぐねぐねと動き、魔メを飲み込む。上手くいく度蒼角は「すごいすごい!」「スピードアップ~!」と楽しそうに声を上げた。
「次は蒼角ちゃんね」
「ええ~、蒼角上手くできるかな~……」
「上手くなくてもいーの。頑張ってやってみてよ」
「はぁーい」
そう言っていると、そのバトルは悠真が1位で終了した。蒼角は自分のお財布を取り出そうとしたが、悠真の右手がそれをやんわりと止めさせた。
「ディニーは僕が入れておくからさ、蒼角ちゃんは月城さんから連絡ないか見てみなよ」
「あ、うん。ありがと! ナギねえからは~……」
蒼角はスマホを確認すると、メッセージが届いていたことに気が付いた。
「あ、今向かってるみたい!」
「じゃああと二回くらいやったらやめておこうか。その後はビデオ屋でちょっと待たせてもらえばいいんじゃない?」
「うーん、そうだね! 少しくらいなら……メーワクにはならないよね」
そう話していると、あっという間に開始のカウントダウンが始まる。蒼角は慌ててボタンへ手を伸ばした。
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