#11 不安と独占欲 - 5/6

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「いっただっきまーす!」

 ルミナスクエアにあるラーメン屋《滝湯谷・錦鯉》で、蒼角は三度目のいただきますを言った。火鍋のあとだから一杯だけ……やっぱりこっちのラーメンも食べたいからもう一杯……と気づけば現在三杯目だ。たくさん食べすぎるとラーメン屋の店主が困ってしまうということをわかっている蒼角は、一杯一杯をゆっくりと味わって食べることにしている。

「ぷはぁ~! こっちも美味しいなぁ~。次は何食べ……ってちがうちがう! 食べ過ぎないように気をつけないとなんだから!」

 蒼角は今一度自分の覚悟を思い出し、目の前のラーメンスープをゆっくりと味わっている。そして麺に手を付け始める頃、とんとんと肩を叩かれた。

「……あの、すみません!」

「ふぇ?」

 もぐもぐと口を動かしながら蒼角が振り返ると、若い女性二人組がそこにいた。

「なんれふか?」

「あの、六課の蒼角ちゃんですよね!?」

「はむはむ……ごくん。うん、そうだよ! 蒼角に何か用事?」

「あの、こんなに可愛らしい格好の蒼角ちゃん初めて見ました! 一緒に写真撮っていいですか!?」

「ふぇ?? えーと、うーんと、いいよ! でもラーメン伸びちゃうしおじちゃんのメーワクになっちゃうから、ちょっとだけだよ!」

 蒼角がそう答えると、女性二人組は「きゃあ」と嬉しそうな声を上げさっそく蒼角と一緒に自撮り写真を撮り始めた。数枚撮影が終わると、女性二人組はぺこぺこと頭を下げ、蒼角にお礼を言って行ってしまった。

「えへへー、蒼角可愛いって言ってもらっちゃった~」

 蒼角はにこにこ笑顔になると前を向きラーメンをまた啜り始める。満面の笑みで食べる蒼角を見て店主もにこりと笑っていたが、すぐに何かに気が付いたように彼女の背後を見た。

「──すみません、蒼角ちゃんですよね?」

 蒼角が振り返ると、今度は痩せた背の高い男性が一人。そしてその後ろには三人組の女子高校生が、そしてさらにその後ろに……。

「うわわ、なんかいっぱい人集まってきちゃった!」

 蒼角はあわわわ、と慌てふためき、「ちょっと待ってね!」とまずは目の前のラーメンを食べ進めた。今や《滝湯谷・錦鯉 ルミナ店》の前にはラーメンを待つ客なのか蒼角を待つファンなのかわからない程に人でごった返している。

「おじちゃんごちそーさま! えっとえっと、それであなたたちはどうしたの?」

 蒼角がラーメンを食べ終えるのを待っていたファンたちはそれぞれ「写真を」「サインを」「このお菓子を君に」と言っている。

 いつもならばたくさんのファンに囲まれる時は決まって他にも六課のメンバーがいる時なのだが、今日は蒼角一人。数人のファンならまだしも、こんなにもたくさんの人数がいると捌くのも至難の業だ。蒼角は「えっとえーっと順番に~」ともたもたしていると、ひょいとどこからか手が伸びてきて彼女の手首を掴んだ。

「!?」

 蒼角は驚き、思わず臨戦態勢に入ろうとする──が、すぐにその警戒を解いた。

「……あ、ハルマサ」

 彼女の見上げた先にいたのは、息の上がった様子の悠真だった。

「……ぜぇ、ぜぇ、蒼角ちゃ、うっ、げほげほっ……」

「ハ、ハルマサ大丈夫!?」

「いや、ごめ、全然大丈夫じゃな──ゲホッゴホッゴホッ!!」

 蒼角は慌てて悠真の背中を摩り、「わーん! だいじょばないの~!?」と泣きそうになった。

「えっと、ファンのみなさんごめんなさい! わたし、ハルマサ休ませてあげなきゃだからもう行くね! あ、一緒にはお写真撮れないけど、撮りたかったら今撮ってね! はい!」

 にっと蒼角が笑うと、大勢のファンたちは慌ててカメラを彼女に向けて連写した。たった数秒のことではあったが、ファンサービスを終えると蒼角は悠真を支えて歩き始めた。ファンたちは遠巻きにそんな二人を見つめ、そして突然舞い降りた六課のアイドル二人に合掌したのだった──。

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