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──静けさが二人を包み込んだ。
蒼角は恥じらいを感じているのか視線を逸らすと黙り込んでしまい、悠真は喉の奥から今すぐにでも本心が出てきそうになるのを堪えるのに必死だった。少しして蒼角がちらりと悠真を見て、一層顔を赤らめていく。
「え、えと、今のは、今のはね。あのー……」
言葉が上手く続かない蒼角を悠真は見つめている。もしかすると彼女は青鬼ではなく赤鬼だっただろうか、というくらい顔を赤面させる様子に、悠真はそっと手を伸ばした。
「ふぇ……?」
悠真の手が蒼角の両頬を包み込み、じっと目を合わせる。
何が起こるのかわからず、蒼角は目をぱちくりとさせた。
「──蒼角ちゃんの好きって、何?」
「えっ?」
その質問に、蒼角は疑問符をいくつも浮かべた。ただ彼の真剣な表情に、蒼角は少し困ってしまう。何も言えない彼女に、悠真は目を細める。
「月城さんや課長に対する好きと同じ? 美味しいご飯が好きなのと一緒?」
「ち、ちがうよ! そうじゃなくて……」
顔は悠真の方を向けられているが、蒼角はそれから逃れようと視線だけそっと外に向ける。しかし意を決したように瞼を下ろすと──悠真を見つめた。
「この好きは、ハルマサに、もっと近づきたい《好き》だよ……?」
耳を澄ましてようやく聞こえる程度の、小さな声。
潤んだ瞳は何度か瞬きすれば涙が零れ落ちてきそう。
悠真はそんな彼女を見つめ──唇を噛んだ。
「……あーあ、困ったな」
「えっ?」
「キスしたくなる」
「!?」
「……でも、ちゃんとしないとだよね」
「ちゃんと? って?」
蒼角が訊くと、悠真はそっと目を瞑った。
「僕も蒼角ちゃんが好きだ」
「わ」
「でもちゃんと言っておきたいことがある」
「言っておきたいこと? なに?」
「……僕といられるのは、とても短い時間かもしれない。前に百歳まで生きる、なんて約束をしたことがあったけど……僕は、そんなに長くはやっぱり生きられないと思う」
「………」
「だからね、蒼角ちゃんが僕を好きだと思えば思う程、いつか辛くなる時が来るかもしれないよ。それでも……僕を好きでいてくれる?」
「………」
頬を包み込んでいた悠真の手から力が抜ける。そっと両手が離れていくと、蒼角は不安げに彼を見つめた。しばらく何も言わないままだったが、やがて小さな口から言葉が溢れた。
「ハルマサに会えなくなっても、蒼角はハルマサが好き」
それから悠真の左手を取り、その掌に頬擦りをした。
「会えなくなることは考えたくないけど……でもそれならなおさら、ハルマサといっぱい一緒にいたいな」
小さな唇が、大きな掌にキスをした。
「わたし、ハルマサの恋人になれる?」
やんわりとした笑顔が向けられる。
悠真は脱力したように笑った。
「──こんなに可愛いこと言われて、恋人にしない方がどうかしてるよ」
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