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「わっ……」
悠真の腕が、蒼角の小さな体を抱きしめた。
ここ最近、蒼角から抱きしめることは幾度もあったが、悠真からこんなふうに抱きしめるのは久しぶりだった。あの熱を出した時以来と言ってもいいだろう。ぎゅううっと少しだけ力の入る腕に、蒼角の胸はどくどくと音を立てる。
「はあ……こんなに可愛い子が彼女だったら、僕いろんなこと耐えられる自信がないなぁ……」
「いろんなこと? って? あ、さっき蒼角がテレビで見たみたいな!?」
「そうだったこの子AⅤ見たんだったよ……」
思わず苦笑いをしてしまう悠真と、思い出して赤面する蒼角。そっと体を離すと、悠真は困ったように眉を下げた。
「あのさ、恋人にはなるけど、さすがにそーゆーことはしないよ。負担が心配だしさ。ってか、手出すのやっぱり罪悪感がたまらないっていうか……」
「ザイアクカン? もしかしてあれってやっちゃいけないことなの?」
「いや、やっちゃいけないわけじゃないけど蒼角ちゃんの成長具合的にそれはやっぱりやっちゃいけないことのような気がするし……」
「え? なに?」
「……だから! その、蒼角ちゃんが嫌がるようなことは絶対しないから!!」
急に大声を出す悠真に、蒼角は両耳を塞ぐ。
そしてむっとして目を据わらせた。
「ハルマサばっかり決めないでよぉ」
「ええ?」
「わたしだって、ハルマサが嫌がること、しない! 絶対!」
「あ、そう……」
「ハルマサが嫌なことってなに!? あ、逆にしてほしいことはあるの!?」
「いや……」
「あ、もしかしてここ、食べてほしかったりする!?」
そう言って蒼角が指差すのは──悠真の下半身。
悠真は青い顔で顔を押さえた。
「だから……嫌がることは、させないからね……」
意気消沈の悠真の様子に、蒼角はきょとんとした。
「……そっか、しなきゃいけないことじゃないんだぁ」
「なんて?」
「あ、ううん!」
えへへ、と笑うと蒼角は頬をぽりぽりと掻いた。それから自分の『してほしいこと』を少しだけ考える。思い出したのは、やはり先ほどの濃厚な口づけシーン。蒼角はおずおずと悠真を見上げた。
「あの、ね」
「ん?」
「わたし、してほしいことある」
「! ……何? 今できることならしてあげるけど」
「えっとね、そのぅ……ちゅー、したい」
悠真の胸がドッと音を立てる。しかし、まあ軽くちゅってするくらいなら、とすぐに気持ちを落ち着けた。
「あー、うん。いいよ。じゃ、していい?」
「あ、あのね! あのね……」
「?」
蒼角は視線を外しもじもじとすると、ちらりと悠真を見て──べろりと舌を出して見せた。
「舌」
「……え?」
「お互いの舌、たべてた」
「たっ……べてた?」
「うん」
「……AVの話?」
「うん」
蒼角は興味津々と言った様子で目を輝かせている。
悠真はしばしなんと言おうか迷っていた。
「あのね、エーブイ? はよくわかんないけど、そのちゅーだけはね、ちょっと幸せそうに見えた!」
「へぇ……?」
「蒼角も、幸せになれるちゅー……してみたい」
「ゔっ……うん……そ、っか」
悠真は口元に手を当て──目を閉じて深呼吸した。
「あー……今? するの?」
「うん。ハルマサが今できることはするって」
「スー……ハー………うん、言ったねぇ」
目を開け、蒼角が濃厚なキスを待ち望んでいる現実を改めて確認する。悠真はうんと一つ頷いた。
「どうしよう耐えられる気がしない」
「えっ?」
「ううんこっちの話」
そう言うと悠真の手がそっと蒼角の頬を撫でた。指の腹で何度も何度も擦り、それがくすぐったいのか蒼角は目をぎゅっとつぶった。
「じゃあ、していい?」
「うん」
「……怖かったら、言ってね」
「? うん」
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