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治安局からの応援要請があった地点から──少し離れた場所。そこは件の共生ホロウが出現した時から元々影響下ではなく、市民も変わりなく生活をしていた。お店もたくさん営業をしており、最近は共生ホロウの縮小により更に賑わいが戻りつつある──。
「ってことで、目標地点までのーんびり歩いて、お散歩デートするってのはどう?」
「おさんぽデート……!?」
蒼角は目をキラキラさせ、悠真を見た。
「わああ、デート、デートだぁ! ドラマでしか見たことないやつ!」
「あはは。でもやることはいつもと一緒だけどね」
「いつもと一緒?」
「そーだよ。今までだって僕と出かける時ご飯食べたりいろいろ見て回ったりしたでしょ」
「うん」
「デートも一緒」
「じゃあわたし、恋人になる前からハルマサとずっとデートしてたの?」
首を傾げて訊ねる蒼角に、悠真は思わず咽て咳き込んだ。
「……う、ん、言われてみるとそうだね。まあでもデート中に恋人同士じゃないとできないこともあるから」
「できないこと??」
わからない、という様子の蒼角に手が差し伸べられる。
悠真は「ほら」と促した。
「手を繋いで歩くのは、恋人の特権」
「わぁ……!」
蒼角は顔色を明るくさせると、悠真の手を取った。
「恋人のトッケン!」
「あはは、嬉しいの?」
「うれしい~!」
「そっかそっか、喜んでくれて嬉しいな~」
「でも誰かに見られたら、何か言われちゃう?」
「んー……」
悠真は少し考えるように宙を見ていたが、肩をすくめて答えた。
「いや~、うちの可愛い蒼角ちゃんが迷子にならないようにしてただけなんです~って言ったらみんな納得しちゃうと思うな」
「それって……どういうこと?」
「傍から見たら恋人には見えなさそうってこと」
「ええー!!」
蒼角が驚きの声を上げると、悠真は苦笑いをした。
「どうして!?」
「どうしてってそりゃー……蒼角ちゃんと僕じゃあ見た目がねぇ」
「ううー、じゃあそれって蒼角がもっと大人にならなきゃいけないってこと!?」
「そうは言ってないってば」
ぎゅ、と少し強く手を握る。
それに気づいた蒼角は握られた手を見て、悠真を見上げた。
「別に周りからどう見えても、僕たちが恋人になったのは事実でしょ」
「……うん」
「楽しくないこと考えるのはよしてさぁ、お店とか見て回ろうよ。このままだとあっという間に治安局のお仕事手伝わされちゃうよ」
ね~、と悠真が言うと、蒼角は少し考えたようにしてからこくりと頷いた。
「……あ!」
「ん? 何?」
「あそこにご飯屋さんがあるよ! 見に行こ!」
「いや今食べる気はないからね?」
そう言ったものの、蒼角は握った手をするりと抜け、お店に駆け寄っていった。
「ハルマサ~! ここ『一時間大食いチャレンジ』ってチラシ貼ってる~!!」
「大食い挑戦も今しないからね!?」
うっかりするとご飯に吸い寄せられる蒼角に、悠真は慌てて着いていくのだった。
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