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「あれっ、応援って浅羽先輩だったんですか?」
治安局特務捜査班に所属するセス・ローウェルが目をぱちくりとさせてそう訊いた。
「そ、そう……僕だよ。あとうちの蒼角ちゃんね……」
「蒼角だよ! ふさふさお耳としっぽのお兄さんこんにちは!」
蒼角がニコニコと満面の笑みで挨拶すると、セスはその元気の良さに少したじろいだようにして「こ、こんにちは」と笑顔をぎこちなく浮かべた。
「というか浅羽先輩、なんでそんなに疲れてるんです? 到着が遅れたことと関係あるんですか?」
「関係は大いにあるねぇ……蒼角ちゃんに引っ張り回されてさぁ……」
「ふさふさのお兄さん! わたしたちお仕事何すればいいの?」
「ええっ、と、少し待っててください。今指示を仰ぐので」
セスはその場を離れると、他の治安官に確認に行った。
その背を見て、悠真はふぅと一息つく。
「まー予想通り今日は暇な日を過ごすことになりそうだよ」
「そうなの?」
「かなりの勢いで縮小してるし、僕たちの出番もなさそうだ。のんびりやってきて正解だね」
悠真の見解通りだったのか、セスは戻ってくると苦虫を噛み潰したような表情で言った。
「すみません、別ポイントのエーテル反応異常も収まったようで、ここの縮小化にも影響はこのあと出なさそうです。なので……」
「そっか~残念~。あーあエーテリアスが出ないんじゃ、僕たち用なしだよね~。せっかくだし交通整理とかやってみよっかな~?」
「えっ、手伝ってもらえるんですか?」
「うそうそ、やるわけないじゃん」
悠真の返答に、セスはげんなりとした表情をする。
「ほんとこの人……」
「それじゃー僕たち帰ってもいいってこと~?」
「そちらの報告書もあるでしょうし、詳しい情報お伝えしますよ。少し待っててください」
「はーいはい」
──結局、その場で暇を持て余すことになった二人は道の隅の方で待つことになった。柳から連絡を受けた悠真は再度「このまま直帰していいか」の確認をしている。その様子を見ていた蒼角は、通話が終わると口を開いた。
「ねぇハルマサ」
くいっ、と袖が引っ張られ、悠真は隣を見た。
蒼角は少し心配そうな顔で彼を見上げている。
「あのね、まだナギねえに話してないの」
「ん? 何を?」
「……ハルマサと、こ、恋人になったんだよって」
蒼角は周りに聞かれないように少し小声でそう言った。そんな彼女に合わせるように膝を折ると、悠真も小声で言った。
「……そっか。やっぱ話さないとダメだよねぇ」
「そ、そうだよね!? でもわたし、言ったらナギねえに怒られるのかもって思って……」
「うーん、怒られるのは僕かな?」
「蒼角は!? 怒られないの!?」
「いやー……全面的に僕の方が有罪だから」
「ゆーざい??」
蒼角が心配そうな表情をすると、悠真は笑って見せた。
「でも、認めてもらわないと困るよね。僕だってちょっとやそっとじゃ蒼角ちゃんを手放す気なんてないんだから」
「……わたし、ナギねえによかったねって言ってほしい」
「え?」
「初めて、すきなひとができて……それで恋人になることができて、これって幸せなことでしょ? お祝いしてもらえなくてもいいから、それでも『よかったね』って、言ってもらえたらいいんだけど……」
「うーん……どうだろうねぇ~。まあ、タイミング見計らって言うしかないかな」
「タイミング?」
「月城さんが怒らないようなタイミング」
悠真がそう言うと、蒼角は眉間にぎゅっと皺を寄せて考え始めた。彼女の真剣そうな表情に、ぷっと思わず悠真は笑う。
「ま、ゆっくり考えていけばいいでしょ」
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