腹ペコ小鬼とお守り隊員 - 3/4

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「ねぇ、あれすっごく美味しそう! 食べれる!?」
「ええー! あんなに綺麗な色してるのに食べられないの!?」

 街へ出てきて第一声は「お腹減った!」だったこの小さな青鬼ちゃんは行く先々で物珍しそうに目を輝かせている。ただ後ろをついて歩いて、良さそうな出店でもあれば何か買ってあげようかなんて考えていたら、目の前にそびえ立つモニュメントにかじりつこうとしたもんだから、僕は彼女の首根っこを引っ掴んだ。

「あのねぇ、君は鬼だからもしかしたらほんとに食べられるのかもしれないけど。これは食べ物じゃないからね!?」
「ええー? ちがうの? ちょっと硬いし苦い気もするけど食べれると思うよ!」
「だから食べちゃダメなものなんだってば!」

 この辺りでは待ち合わせ場所によくされているその角ばったモニュメントをよくよく見る。歯型は付いていなさそうだ。僕はほっと胸を撫で下ろし、もし故意に破損してしまった場合の修理費用なんかを頭で計算して青ざめた。

「一応業務中ってことで、H.A.N.D.に払ってもらえたりするかなぁ」

 ぼやいていると、ふと隣に立っているのが青肌の少女ではないことに気がついた。慌てて辺りを見回す。どこに行ったのか。もしこれで迷子になんてなれば……いや、迷子になった先で他の誰かに迷惑や更には食い逃げなんてことになってしまえば、僕の責任は免れないし副課長からこってり絞られてしまう。それは嫌だ。定時でスタコラサッサと帰るのが僕の使命なんだ、お説教で長引くなんてたまったもんじゃない!

「……ねぇ、青鬼ちゃんどこ行ったの!? えーと………そ、蒼角ちゃん!」
「はーい!」

 声が聞こえた先を振り返れば、人集りの中からぴょんぴょんとジャンプしている角の先が見えた。僕は慌てて彼女の声がする方へと駆けだした。何かに巻き込まれているのか。ただでさえお守りなんて面倒なのにどうしてこうも上手くいかないんだこの子は。
 人混みを掻き分け見てみれば、細長い鉄骨を抱えた青鬼ちゃんと、彼女よりもうんと幼い男の子がそこに座り込んでいた。

「あ、来た来た! あのね、これが上から落っこちてきたの!」
「落っこちてきた?」

 僕は上を見上げた。すぐ隣のビルの屋上では何やら工事中のようで、そこから資材が落ちてきたらしい。上から大声でこちらに何か言っている。慌ててビルから飛び出してきた建設作業員もこちらへやってきた。

「この子にぶつかりそうだったからね、蒼角、受け止めてあげたの!」

 彼女はそう言って、「えへへ、えらいでしょー」と笑った。僕はそんな彼女を見て放心し、それから素直に「すごいや」と呟きを漏らした。

「蒼角、役に立ってる?」
「え?」
「わたし、もっとみんなの役に立ちたいんだぁ」

 ゴト、と鉄骨を地面に置いて彼女は寂しそうに笑った。
 男の子の泣きじゃくる声が響き、まるで鈍器で殴られたように頭がぐわんぐわんと揺れる。

「ねぇ、あなたは……もしかして蒼角のこと嫌い?」

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