#16 君と僕
──浅羽悠真がホロウで倒れたことには箝口令(かんこうれい)が敷かれていた。 絶大な人気を誇る六課に所属する彼が持病で倒れたなどといった噂が流れれば、彼に好意を寄せる民間人ないし六課を良く思わない一部の界隈から少なくない《ご意見》がH.A.…
蒼角と悠真
#15 肺と心臓
しろい、しろい、かべ。 くさい、くさい、くすりのにおい。 ながいろうかをあるいてあるいて ドアをあければあまいにおい ハルマサと、あまいにおい。「──いらっしゃい、蒼角ちゃん」 浅羽悠真が緊急入院してから一週間近くが経った。 最初の数日こ…
蒼角と悠真
#14 お話と仲直り
「……プロキシぃ」「ん?」「今日、ここにお泊りさせて」 沈みきった声。 眉間に皺を寄せ、不安そうな表情。 きゅっとスカートの裾を握る様子に、リンは眉を下げた。「……蒼角、こっちおいで。今あったかい飲み物入れてあげる」「いいの?」「うん。つい…
蒼角と悠真
#13 大人と子ども
「え、応援ですか?」 浅羽悠真はげんなりとした顔で月城柳を見た。「はい、治安局から要請がありました。現在縮小中の共生ホロウ付近の交通整理や安全確認の最中、どうやら少し離れた地域でエーテル反応に異常が見られたようで今後急激に活性化した場合に備…
蒼角と悠真
#12 約束と口づけ
「ボスー、あれなんて読むの~?」「《休憩》だ」「キュウケイ? ここ、休憩できるの?」「ああ」 六課課長の星見雅と蒼角が見上げているのは、《ホテル ラブスイート》と看板に書かれたホテルだ。 建物の見た目はシンプルだが、名前からは字体のせいか妙…
蒼角と悠真
#11 不安と独占欲
「ふわぁ~~~!!」「ん~、美味しそ~!」 目の前に用意された火鍋から立ち上る湯気に蒼角が目を輝かせている。そんな彼女を見つめるのは、機嫌を良くしたビデオ屋店長──リンだった。 ──長らく忙しくしていた六課だったが、久々に休暇が取れると聞い…
蒼角と悠真
#10 ゲーセンと囁き
「ハルマサー! おはよーっ!」 大きな朝の挨拶と共に、ドンッという衝撃が腰に響く。浅羽悠真は「ぐえっ」と呻き声を上げながら前に倒れそうになった。「なな……何!?」「おはよ!」 見れば蒼角が悠真の腰にしがみつくように抱き着いていた。「おはよ蒼…
蒼角と悠真
#9 気づきと葛藤
「わたし、ハルマサとぎゅーしたい」「……ブフォッ! げほ、げほげほっ!!」 ──本日は天気が悪く、屋上での青空ランチはやめにしようということで食堂へ来て席についた瞬間のことだった。浅羽悠真は飲もうとしたお茶を吹き出し、うっかりテーブルの上を…
蒼角と悠真
#8 抱擁と動揺
「蒼角ちゃんほんっっと~~~にごめん!!」「ふぇ??」 ──勤務開始時間と同時に六課の職場へと滑り込んできた浅羽悠真は何やら手に持っている菓子折りを蒼角に差し出しながら頭を下げた。彼の謝罪ポーズはあまりにも綺麗に腰が直角に曲がっている為、蒼…
蒼角と悠真
#7 熱と肌
「……え、浅羽隊員とビデオ屋に?」「うん、ハルマサとビデオ見るの! それでね、ハルマサのおうちでねこちゃんと仲良くなるの!」 とてもよく晴れた休日、蒼角はお気に入りのTシャツに着替え終わるとパジャマを洗濯かごに入れながらそう言った。キッチン…
蒼角と悠真
#6 意地悪と優しさ
「──最近、浅羽隊員が蒼角と一緒にいることが増えたような気がします」 お昼時、月城柳は星見雅と共に食堂で昼食を取っていた。 柳の注文したのはAランチ。 雅の注文したのはBランチ。 雅はここ一週間Bランチしか頼んでいない。『Bランチを食べ続け…
蒼角と悠真
#5 先輩と後輩
「あのね、蒼角にコーハイができたんだよ!」 昼休憩から戻ってくるなり六課の入り口で蒼角は嬉しそうにそう言った。月城柳は手に持っていた書類を置き、くるりと椅子を回転させた。「後輩? 確かにH.A.N.D.には現在たくさんの新人がいますが……六…
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